朱華と情を交わしたあと、高天帝はすぐに彼女を妃に昇格させようと考えたものの、それには問題が山積みだった。
現在皇極殿には一〇〇名ほどの華綾の采女が出仕しているが、彼女たちのほとんどが高級官僚や大富豪の娘だ。
誰もが龍帝の妃になりたい、世継ぎの御子を生んで一族に外戚としての権力を与えたいという野望を抱いており、優雅な雰囲気とは裏腹に隙あらば他者を出し抜こうというドロドロとした思惑に満ちている。
もし朱華を妃に召し上げると言えば、彼らが大いに反発することは必至だろう。「白桜国の未来のため、多くの妃を持って子を生ませるべきだ」と主張するのはもちろん、もしかすると朱華の身に危険が及ぶかもしれない可能性もあり、慎重に動かなくてはならない。
そう考えた高天帝は、彼女との逢瀬に細心の注意を払っていた。烈真に命じて周囲の人払いをし、朱華を呼ぶ理由はあくまでも〝話し相手〟にするためだという姿勢を崩さない。
一方で方々に根回しをし、彼女を一日も早く妃にできるよう尽力していた。さらに龍帝としてさまざまなことに目を配らねばならず、最近は多忙を極めている。
(疲れをおぼえるときもあるが、近頃の私は以前に比べて充実している。朱華に会えると思うだけで、こんなにも前向きになるなんて)
皇極殿の私室に戻って着替えを済ませた高天帝は、少し休んでから玉虹殿に向かう。
そして真砂と久世の二名と会談をしたあと、天華殿に足を向けた。天華殿は賓客の宿泊のために使っている宮殿で、普段は用のない人間は近づかないところだ。
中のひときわ豪奢な部屋で待っていたところ、やがて小姓に先導された朱華がやって来た。
「朱華、待ちかねたぞ」
「陛下……」
小姓が頭を下げて退室した途端、高天帝は彼女の腰に腕を回してその身体を引き寄せる。
腕の中の華奢な骨格、花のような香りを感じるとたまらなくなり、思わず抱きしめる腕に力を込めた。
すると朱華がこちらの背中に腕を回してきて、じんわりといとおしさが募る。
二人きりの時間は、とても甘やかだった。熱に浮かされたようなひとときのあと、褥から起き上がって身支度を整える彼女の後ろ姿を、高天帝はじっと見つめる。
背後から覆い被さるようにして細い身体を抱き寄せると、朱華が困った顔で言った。
「陛下、わたくしは奉職に戻りませんと」
「二人でいるときは、名を呼べと言っただろう」
「……千黎さま」
現在皇極殿には一〇〇名ほどの華綾の采女が出仕しているが、彼女たちのほとんどが高級官僚や大富豪の娘だ。
誰もが龍帝の妃になりたい、世継ぎの御子を生んで一族に外戚としての権力を与えたいという野望を抱いており、優雅な雰囲気とは裏腹に隙あらば他者を出し抜こうというドロドロとした思惑に満ちている。
もし朱華を妃に召し上げると言えば、彼らが大いに反発することは必至だろう。「白桜国の未来のため、多くの妃を持って子を生ませるべきだ」と主張するのはもちろん、もしかすると朱華の身に危険が及ぶかもしれない可能性もあり、慎重に動かなくてはならない。
そう考えた高天帝は、彼女との逢瀬に細心の注意を払っていた。烈真に命じて周囲の人払いをし、朱華を呼ぶ理由はあくまでも〝話し相手〟にするためだという姿勢を崩さない。
一方で方々に根回しをし、彼女を一日も早く妃にできるよう尽力していた。さらに龍帝としてさまざまなことに目を配らねばならず、最近は多忙を極めている。
(疲れをおぼえるときもあるが、近頃の私は以前に比べて充実している。朱華に会えると思うだけで、こんなにも前向きになるなんて)
皇極殿の私室に戻って着替えを済ませた高天帝は、少し休んでから玉虹殿に向かう。
そして真砂と久世の二名と会談をしたあと、天華殿に足を向けた。天華殿は賓客の宿泊のために使っている宮殿で、普段は用のない人間は近づかないところだ。
中のひときわ豪奢な部屋で待っていたところ、やがて小姓に先導された朱華がやって来た。
「朱華、待ちかねたぞ」
「陛下……」
小姓が頭を下げて退室した途端、高天帝は彼女の腰に腕を回してその身体を引き寄せる。
腕の中の華奢な骨格、花のような香りを感じるとたまらなくなり、思わず抱きしめる腕に力を込めた。
すると朱華がこちらの背中に腕を回してきて、じんわりといとおしさが募る。
二人きりの時間は、とても甘やかだった。熱に浮かされたようなひとときのあと、褥から起き上がって身支度を整える彼女の後ろ姿を、高天帝はじっと見つめる。
背後から覆い被さるようにして細い身体を抱き寄せると、朱華が困った顔で言った。
「陛下、わたくしは奉職に戻りませんと」
「二人でいるときは、名を呼べと言っただろう」
「……千黎さま」
