ふいに高天帝に身体を引き寄せられ、腕の中に抱きしめられる。

衣服に焚きしめられた雅な香が鼻腔をくすぐり、布越しにしっかりとした身体を感じた朱華は、かあっと頬を赤らめながらしどろもどろに問いかけた。

「あ、あの、龍帝陛下」
「何だ」
「お身体の具合は大丈夫なのでしょうか。いつも気だるそうにしていらっしゃったので、お加減が悪いのかと心配していたのです」

それを聞いた彼が抱きしめる力をわずかに緩め、こちらを見下ろして言った。

「いつもは頭痛や倦怠感が強いが、朱華といるときはそれが和らいでいるのを感じる。きっとそなたが言っていたとおり、気晴らしをすることで気持ちが上向きになっているのだろう。内殿医もそう話していた」

間近で見る高天帝の顔はこれまで見たこともないほど秀麗で、密着した身体越しに響く低い美声に胸がいっぱいになる。

朱華は言葉を続けた。

「それを聞いて、安心いたしました。でしたらわたくしだけではなく、他の采女や官人などともお話しをされると、もっとお元気になられるかもしれませんね」

そんな朱華の言葉を聞いた彼が驚いたように眉を上げ、小さく吹き出してつぶやく。

「やはりそなたには、まったく欲がないな。普通は私を独占しようと考え、他の采女と会うことなど勧めぬだろう」
「そ、そうでしょうか……あっ」

たくさんの蛍が舞う幻想的な雰囲気の中、再び高天帝に引き寄せられた朱華は言葉を途切れさせる。

畳に横たえられて覆い被さられると、薄闇の中に浮かび上がる銀糸のような彼の髪と紅玉のごとき瞳がきれいだった。

甘やかな気持ちでいっぱいになりながら、朱華は高天帝の腕に身を委ね、そのまま目を閉じた。