それを聞いた朱華の胸が、ぎゅっと強く締めつけられる。
華綾の采女として出仕したのは、雇用主だった風峯から龍帝を暗殺するようにという密命を受けたからだった。
つまり出会った当初に高天帝が言っていた「奴に私を殺せとでも命じられてきたか」という言葉が正鵠を射ていたわけだが、朱華自身が彼に殺意を抱いたことは一切なく、それを信じてもらえたことに胸が熱くなっていた。
(わたしは……やっぱりこの方が好き。たとえ風峯さまに命じられても、この方を殺すことなんてできない)
高天帝は圧倒的な美しさと皇帝にふさわしい品格の持ち主だが、権力を笠に着て理不尽に下の者を虐げたりといったことはしない。
忘れられない女性がいるという理由で華綾の采女に手を付けないのは、彼の誠実さの表れだ。
きっと亡くなったその女性を大切に思うからこそ、ただ後継者を残すためだけに妃を娶る気にはなれなかったのだろう。
そんな高天帝が、自分を「大切だ」と言ってくれている。こちらが空腹であることに気づいて手ずから料理を食べさせてくれたり、蛍を見せてくれたりという気遣いがうれしく、朱華の目から涙がひとしずく零れ落ちた。
するとそれを見た彼が、手を伸ばして頬にそっと触れながら言う。
「どうした。なぜ泣く」
「龍帝陛下のお言葉が、わたくしのような者には勿体なくて……涙が出るのです」
「そこまで自分を卑下する気持ちが、私にはわからない。たとえ養女であるにせよ、そなたは風峯の娘として出仕したのだから、堂々としていればいい」
華綾の采女として出仕したのは、雇用主だった風峯から龍帝を暗殺するようにという密命を受けたからだった。
つまり出会った当初に高天帝が言っていた「奴に私を殺せとでも命じられてきたか」という言葉が正鵠を射ていたわけだが、朱華自身が彼に殺意を抱いたことは一切なく、それを信じてもらえたことに胸が熱くなっていた。
(わたしは……やっぱりこの方が好き。たとえ風峯さまに命じられても、この方を殺すことなんてできない)
高天帝は圧倒的な美しさと皇帝にふさわしい品格の持ち主だが、権力を笠に着て理不尽に下の者を虐げたりといったことはしない。
忘れられない女性がいるという理由で華綾の采女に手を付けないのは、彼の誠実さの表れだ。
きっと亡くなったその女性を大切に思うからこそ、ただ後継者を残すためだけに妃を娶る気にはなれなかったのだろう。
そんな高天帝が、自分を「大切だ」と言ってくれている。こちらが空腹であることに気づいて手ずから料理を食べさせてくれたり、蛍を見せてくれたりという気遣いがうれしく、朱華の目から涙がひとしずく零れ落ちた。
するとそれを見た彼が、手を伸ばして頬にそっと触れながら言う。
「どうした。なぜ泣く」
「龍帝陛下のお言葉が、わたくしのような者には勿体なくて……涙が出るのです」
「そこまで自分を卑下する気持ちが、私にはわからない。たとえ養女であるにせよ、そなたは風峯の娘として出仕したのだから、堂々としていればいい」
