今後も女ばかりの皇極(こうきょく)殿(でん)で生きていくのだから、それは当然だ。

いつかは終わる新顔いびりなら受け流せても、ただ一人龍帝から特別扱いされる立場になってしまった朱華のことは庇いきれない。そう考えた美月が自分から距離を取るという選択をしたのだろうと悟り、朱華は踵を返して食堂を後にする。

急に態度を変えられて深く傷ついたものの、彼女たちを直接問い質す気にはなれなかった。美月と風花は皇極殿に来た初日から明るく声をかけてくれ、他の采女たちに嫌がらせをされた朱華の仕事を手伝ってくれたり、ときには抗議をしてくれた。

だが華綾の采女が龍帝の寵を競う立場である以上、こういう流れになってしまうのはきっと避けられないことだったのだろう。一抹の寂しさを感じながら、朱華は「仕方がないのだ」という気持ちを強くする。

ため息をつき、建物を出て采女たちが住まう(すい)霞宮(かきゅう)に戻ろうとしたところ、龍帝付きの若い小姓がやって来て礼を取って告げた。

「龍帝陛下が、朱華どのをお呼びです」
「この時間からですか?」

普段の呼び出しは日中か夕方が多かったが、今はもう戌の刻だ。すると彼は顔を上げ、言葉を続ける。

静観苑(せいかんえん)にて、蛍を鑑賞しないかと仰せです。よろしければわたくしがこのままご案内いたしますが」
「あの、身なりを整えますので、少々お待ちください」

静観苑とは皇宮の北側にある庭園で、茶室の中から美しい植栽が眺められる。

急いで自室で衣服を整え、化粧を直した朱華は、小姓の案内で静観苑へと向かった。すると緑に囲まれた茶室の入り口には烈真が控えており、中に入ると坐具(ざぐ)に座って庭を眺めている高天(たかあまの)(みかど)がいる。

「朱華でございます。お召しと伺い、参上いたしました」
「ああ。入れ」

室内は真新しい畳の香りが漂い、開け放された(しとみ)()からは飛び石や(つくばい)がある見事な庭園が見えた。

膳奉(ぜんほう)が酒膳を運んできて、彼の目の前に置く。隣に座った朱華が盃に酒を注ぐと、高天帝が言った。

「そなたも飲むといい」
「いえ、わたくしは……」

彼に「遠慮するな」と言われた朱華は、膳の上に置かれたもうひとつの盃に酒を注ぐ。

「頂戴いたします」