風峯の言っていることの意味がわからず、朱華は困惑を深める。
そんなこちらを見下ろし、彼がやや声をひそめて言った。
「――現在の龍帝である高天帝は、ここ数年だいぶ病んで衰えている。だが妃を一人も持たず、御子もおられないため、宮廷では早急に今上帝を退位させて新たな龍帝を即位させたいと考える一派がおるのだ」
「…………」
「そなたに頼みたいのは、陛下のお傍に上手く近づき、折を見て暗殺してもらいたいということだ。龍の化身といわれる陛下だが、それはよくある建国神話で、実際は常人にすぎないに違いない。病み衰えている身ならば、女でもたやすく命を奪うことができるだろう」
ここに呼び出された理由が龍帝の暗殺依頼のためだったとは夢にも思わず、朱華は青ざめて絶句する。
しかしすぐに猛烈な焦りに駆り立てられ、声を上げた。
「お待ちください。龍帝陛下を殺めるといった恐ろしい企てには、わたくしは加担できません。あまりにも不敬です」
市井の人間にとって、龍帝は雲の上の存在だ。
彼は侮るような発言をしているが、白桜国の民は自国の帝が龍の末裔だと本気で信じている。誰もが「長く太平の世が続いているのは、龍帝のおかげだ」と考えており、千早台のあちこちにある寺院や祠廟には過去の龍帝が神格化したものが祀られていた。
つまり民に畏敬を持って崇められている存在であるにもかかわらず、風峯は暗殺しろと言っている。自身がとんでもないことに巻き込まれているのを知った朱華は、ひどく動揺していた。
そんなこちらを見つめ、風峯があっさりと告げる。
「何か勘違いしているようだが、そなたに拒否権はない。話を聞いた以上は承諾しなければ帰すことはできないし、あくまでも拒むというならここで死んでもらわなくてはならぬ」
「そんな……」
「そなたにとっても、そう悪い話ではない。龍帝陛下を弑した暁には嫌疑がかからぬよう上手く取り計らい、皇宮から脱出させた上で高額の謝礼を支払うと約束しよう。当家の娘として出仕するのだから、そなたと私は一蓮托生だ。こちらとしても大逆を犯したと露見するのは本意ではないゆえ、その点はまったく心配しなくていい」
そんなこちらを見下ろし、彼がやや声をひそめて言った。
「――現在の龍帝である高天帝は、ここ数年だいぶ病んで衰えている。だが妃を一人も持たず、御子もおられないため、宮廷では早急に今上帝を退位させて新たな龍帝を即位させたいと考える一派がおるのだ」
「…………」
「そなたに頼みたいのは、陛下のお傍に上手く近づき、折を見て暗殺してもらいたいということだ。龍の化身といわれる陛下だが、それはよくある建国神話で、実際は常人にすぎないに違いない。病み衰えている身ならば、女でもたやすく命を奪うことができるだろう」
ここに呼び出された理由が龍帝の暗殺依頼のためだったとは夢にも思わず、朱華は青ざめて絶句する。
しかしすぐに猛烈な焦りに駆り立てられ、声を上げた。
「お待ちください。龍帝陛下を殺めるといった恐ろしい企てには、わたくしは加担できません。あまりにも不敬です」
市井の人間にとって、龍帝は雲の上の存在だ。
彼は侮るような発言をしているが、白桜国の民は自国の帝が龍の末裔だと本気で信じている。誰もが「長く太平の世が続いているのは、龍帝のおかげだ」と考えており、千早台のあちこちにある寺院や祠廟には過去の龍帝が神格化したものが祀られていた。
つまり民に畏敬を持って崇められている存在であるにもかかわらず、風峯は暗殺しろと言っている。自身がとんでもないことに巻き込まれているのを知った朱華は、ひどく動揺していた。
そんなこちらを見つめ、風峯があっさりと告げる。
「何か勘違いしているようだが、そなたに拒否権はない。話を聞いた以上は承諾しなければ帰すことはできないし、あくまでも拒むというならここで死んでもらわなくてはならぬ」
「そんな……」
「そなたにとっても、そう悪い話ではない。龍帝陛下を弑した暁には嫌疑がかからぬよう上手く取り計らい、皇宮から脱出させた上で高額の謝礼を支払うと約束しよう。当家の娘として出仕するのだから、そなたと私は一蓮托生だ。こちらとしても大逆を犯したと露見するのは本意ではないゆえ、その点はまったく心配しなくていい」
