気がつけば広間で作業していた采女たちが皆こちらのやり取りに注目していて、朱華はいたたまれなさをおぼえる。

今まで友人と仲よくしてくれていた風花に突然敵意を向けられ、どうしていいかわからなかった。
彼女だけではなく、他の采女たちも同様のことを考えているのがこの場の雰囲気から伝わってきて、自分が針の筵のような状況に置かれているのを肌で感じる。

何も言えずに言いよどんでいると、美月が取り繕うように言った。

「奉職中にこんな話をするのはやめましょう。朱華は体調が悪いなら、上の方に相談して休ませていただいたほうがいいわ。風花、あなたはこっちへ」

彼女が風花を連れていってしまい、朱華はその背中を黙って見送る。

華綾の采女は龍帝の妃候補で、誰もが彼に近づきたいと願っているのだから、ただ一人気に入られている自分が嫉妬されるのは当然だ。

ああして気遣ってくれている美月も、心の底ではこちらを疎ましく感じているのかもしれない――そう思うと、朱華は大海原の中に取り残されたような寄る辺のない気持ちにかられた。

采女たちがヒソヒソと話しているのを横目に、朱華は自分に与えられた作業を無言でこなした。そして広間を出て花壇の手入れに向かいながら、じっと考える。

(まずはお母さんに手紙を書いて、今の生活がどんな感じなのか探りを入れよう。それから月に二日もらえる休暇を前倒しにできるかどうかを確認しなきゃ)

もし桔梗に直接会えるのならば、自分が先月もらった給金をすべて渡し、女中の目を盗んで遠くに逃げるよう促す。

だが女中以外にも監視がついている可能性もあり、注意が必要だ。とりあえずは彼女自身に注意深く周囲を観察してもらい、一体どのくらいの人間の目が周囲にあるかを確認したほうがいいかもしれない。

その後、自分の衣服だけが洗濯をされずに洗い場に放置され、食事を取りにいくと膳が用意されていないのがわかって、朱華は自分が華綾の采女の中で完全に孤立したのを悟った。

周囲を見回すと、少し離れたところに風花と一緒にいた美月が気まずげに目をそらすのが見え、「ああ、そうか」と理解する。

(美月はきっと、わたしの味方をするより大勢に迎合したほうが人間関係が上手くいくと考えたんだわ。だからああして、向こう側についた……)