にべもない高天帝の返答に、萩音がぐっと言葉を詰まらせ、「……失礼いたしました」と言って退出していく。

入れ替わるように現れた朱華が、両の袖に顔を伏せて挨拶をしたあと、気がかりそうに言った。

「萩音さまがたった今退出されていかれましたが、少しご様子が……」
「私の話し相手になりたいと申し出てきて、それを断ったからだろう」

するとそれを聞いた彼女が、何ともいえない表情になって目を伏せる。

「でしたら、萩音さまにお願いしたほうがよいのではないでしょうか。わたくしより遥かに教養に溢れた方でございますし、陛下を楽しませることができるのではないかと」
「私は他ならぬ朱華にその役目を頼んでいるつもりだが、なぜそのようなことを申すのだ」

朱華は気まずそうな顔をして、答えない。
少し考えた高天帝は、彼女にある提案をした。

「――今日は外に行かないか?」
「えっ?」
「たまには庭園を散歩するのも一興だ。行こう」


八月に入った千早台(ちはやだい)は連日気温が上がり、日中はじりじりとした暑さが続いたものの、夕方になれば吹き抜ける風にわずかに涼を感じる。

皇極(こうきょく)殿(でん)を出て皇宮内を歩き始めたところ、高天帝が剣獅(けんじ)の烈真の他に朱華を伴っているのを見た官人や采女(うねめ)たちがざわつくのがわかった。

それを敏感に感じ取った彼女が、モソモソと言う。

「龍帝陛下、やはりわたくしはご遠慮したほうが……」

どこか気後れした様子でそう申し出る朱華に対し、高天帝は事も無げに答えた。
「別に逃げ隠れする必要はないのだから、堂々としていればいい。古香(ここう)(えん)に行こうか」

皇宮の西側にある庭園はよく手入れされており、木槿(むくげ)やミソハギ、半日陰に咲くギボウシの花が涼しげで美しかった。

半歩後ろからついてくる朱華が、ふいに「あの」と問いかけてくる。

「今まではお部屋にお呼びでしたのに、龍帝陛下がこのようにわたくしを伴って散歩にお出ましになったのはなぜなのですか? 采女や官人などの目がございますし、いらぬ憶測を生んでしまうのでは」
「憶測とは、私がそなたを特別扱いしているということか」
「……はい」