実は身体の不調を自覚し始めた二年ほど前から、高天帝の身体には黒光りする鱗が生え始めている。

内殿医が〝龍鱗病(りゅうりんびょう)〟と呼ぶそれは少しずつ範囲を広げ、今や体表の半分を占めるまでになっていた。

古い文献によると龍の末裔特有の病で、体力と気力の衰えで発症し、頭痛と倦怠感、ときに発熱の症状があるが、治療方法は確立されていないという。

どうやら高天帝の心に「早く死んで天に帰りたい」という厭世的な考えがあるため、そうした気鬱が症状となって身体に現れているようだ。

衣服で隠れるところに留まっているのが幸いだが、高天帝が采女の前で頑なに内衣を脱がないのはそのためだった。

入浴の際は事情をよく知る烈真に手伝いを頼み、限られた者の前でしか肌を見せないようにしている。

朱華と話すようになり、悪化する一方だった症状に緩和の兆しが見えてきたのは、高天帝にとってひどく意外だった。

自分はこのまま病み衰えて死ぬのだと考え、それでもいいと思っていたはずなのに、今は彼女と過ごす時間にささやかな楽しみを見出しているのが不思議でならない。

そんな高天帝の袞衣(こんい)を脱がせ、青嵐色(せいらんしょく)(ほう)を着せかけていた尚侍(しょうじ)の萩音が、ふいに話しかけてきた。

「恐れながら、龍帝陛下はこのあとも朱華をお呼びになられていると小姓どのからお伺いいたしました」
「ああ」
「お話し相手が必要でしたら、ぜひわたくしにそのお役目をお与えください。わたくしは首都・千早台(ちはやだい)で生まれ育ち、幼き頃は光珀国(こうはくこく)金翠国(きんすいこく)を訪れたことがございますし、かの国の貴族とも交流がございます。陛下の無聊(ぶりょう)をお慰めするのに適役かと思いますが」

高天帝は彼女を見つめ、すぐに視線をそらして答える。

「悪いが私が求めているのは、そういうものではない。誰を呼ぶかは自分で決める」
「ですが――」
「下がれ」