彼女は控えめで、高級官僚の娘だという矜持をまるで感じさせない、楚々とした野の花のような印象だった。

それでいて「毎日陛下とお話しするお時間をください」と直談判してくる大胆さもあり、高天帝はふと微笑む。

(彼女は私の精神状態を心配して、わざわざ話をしに来てくれている。それでいて妃にしてほしいと願ったり、自身を特別扱いするように求めるわけではなく、無欲だ)

こちらに見返りを求めない朱華の態度は、高天帝にとって好ましいものだった。

本当は風峯の実子ではないという事実を伏せて出仕したことを彼女は詫びていたが、正式な養女になっているのならまったく問題はない。

だが、そこまでして〝娘〟を華綾(かりょう)采女(うねめ)として出仕させたがった風峯の思惑については、引っかかりをおぼえる。

(朱華は、「風峯には息子はいるが娘はおらず、他の者たちに後れを取っているのを気にしているようだ」と話していたが、はたしてそれだけかな。むしろ彼女に何かをさせるつもりで送り込んだと考えるほうが自然ではないのか)

とはいえ朱華自身の態度にそうした裏を感じたことはなく、高天帝は考えた末に彼女を信じようと決めた。

もし朱華に(よこしま)な考えがあるのなら、こちらに近づけたのを好機と捉え、すぐさま「妃にしてほしい」と望むはずだ。

そうすればこちらの懐深くに入り込むことができ、何をするにも都合がいいと思うが、日中のわずかな時間に会って市井の話をするだけで帰っていくのだから、彼女自身にこちらをどうこうしようという考えはないのだろう。

先日、茶菓子として供された胡桃餅を食べたときの朱華の表情を思い出し、高天帝は思わず微笑む。パッと目を輝かせ、甘さに感激した様子で口に運ぶ様は、まるで子どものようで可愛らしかった。

深窓の令嬢ならばまず龍帝の前で何かを食べること自体を遠慮しそうなものだが、彼女はそういう意味で屈託がない。

その行動からは朱華の素直な性格が垣間見え、同時に足の引っ張り合いが常の采女たちの中ではさぞ生きづらいだろうと感じた。

(朝の診察で内殿医が言っていたように、朱華と過ごす時間が私にとって気晴らしになっているのかな。以前と比べて気鬱が薄れただけではなく、身体にもいい影響が出ている)