それを聞いた高天帝は、しばらく無言だった。
彼が何を考えているのかわからず、朱華の心臓がドクドクと音を立てる。身分を偽って皇帝の居住の場である皇極殿に潜入し、高天帝自身が風峯を疑っている状況なのだから、この場で斬り捨てられてしまってもおかしくはない。
(わたしは……それだけのことをしているのだわ。いくら風峯さまに脅されたとはいえ、お母さんの面倒を見てもらうという条件で龍帝陛下を暗殺するのを了承した形なのだもの。わたしがこの方の立場なら、斬って捨てるか厳しい詮議の上で皇極殿から追放する)
やがてどのくらいの時間が経ったのか、ふと気配を緩めた彼が微笑んで言った。
「そうか。では私は、自分の目で見た朱華とその言葉を信じよう」
「…………」
「何しろそなたは、本当は風峯の娘ではないことを私に看破されてしまうくらいに迂闊だからな。もし手練れの刺客や間諜ならば、そのような振る舞いはするまい」
詰めの甘さを指摘され、朱華の頬がじわりと熱くなる。
確かに高級官僚の令嬢ではなく、市井の育ちだと見破られたことは、本来の目的を思えば悪手だった。
だがそれが理由で高天帝に信じてもらえたのだから、結果としてはよかったのだろうか。そんなふうに考えていると、彼が茶杯の中身を飲み干して言う。
「このあと公務を控えているから、今日はここまでにしよう。そなた、この胡桃餅を食さなくてよいのか」
「そ、それは陛下の御為に供されたものですから」
「甘くて美味だ。せっかくだから食べていくといい」
彼が何を考えているのかわからず、朱華の心臓がドクドクと音を立てる。身分を偽って皇帝の居住の場である皇極殿に潜入し、高天帝自身が風峯を疑っている状況なのだから、この場で斬り捨てられてしまってもおかしくはない。
(わたしは……それだけのことをしているのだわ。いくら風峯さまに脅されたとはいえ、お母さんの面倒を見てもらうという条件で龍帝陛下を暗殺するのを了承した形なのだもの。わたしがこの方の立場なら、斬って捨てるか厳しい詮議の上で皇極殿から追放する)
やがてどのくらいの時間が経ったのか、ふと気配を緩めた彼が微笑んで言った。
「そうか。では私は、自分の目で見た朱華とその言葉を信じよう」
「…………」
「何しろそなたは、本当は風峯の娘ではないことを私に看破されてしまうくらいに迂闊だからな。もし手練れの刺客や間諜ならば、そのような振る舞いはするまい」
詰めの甘さを指摘され、朱華の頬がじわりと熱くなる。
確かに高級官僚の令嬢ではなく、市井の育ちだと見破られたことは、本来の目的を思えば悪手だった。
だがそれが理由で高天帝に信じてもらえたのだから、結果としてはよかったのだろうか。そんなふうに考えていると、彼が茶杯の中身を飲み干して言う。
「このあと公務を控えているから、今日はここまでにしよう。そなた、この胡桃餅を食さなくてよいのか」
「そ、それは陛下の御為に供されたものですから」
「甘くて美味だ。せっかくだから食べていくといい」
