思いのほか切り込んだ質問をしてくる彼女を意外に感じつつ、高天帝は頷いて答える。
「本心だ。皇帝としてあのような発言が不謹慎なのは承知しているが、心の内に常に厭世観があるのは否定できない」
すると朱華はぐっと表情を引き締め、思いがけないことを言う。
「あれから陛下のお言葉の意味を、ずっと考えておりました。わたくしがこのようなことを申し上げるのは僭越ではございますが、陛下はお身体のご不調はもちろんのこと、日々の楽しみがないからこそあのような発言をされているのではありませんか?」
「それは……」
日々の楽しみなど、考えてみればまったくない。
毎朝起きて身支度をし、奏上された文書に目を通したあと朝議に参加して、謁見に応じる。決められた祭祀儀礼をこなし、ときには宴に出席して一日が終わる。
娯楽といえば華綾の采女の歌や舞、書画を見ることくらいだ。そんなふうに考えながら、高天帝は口を開く。
「そなたの言うとおり、私の生活の中で何かを楽しむという要素はほとんどない。だがそれは、皇帝ならば当たり前のことだ。食膳にもさして興味はないし、どこかの離宮を訪れた際は馬で遠駆けをしたりはするが、それはその土地の視察も兼ねているから、楽しみというのとは違う」
それを聞いた彼女が、得心のいった顔で言った。
「龍帝陛下のご身分であれば、日常のすべてがご政務となってしまうのは当然でございます。よろしければ、わたくしに毎日陛下とお話しする時間をいただけないでしょうか」
「話?」
「はい。微力ながら、陛下の気鬱をお慰めするお手伝いをさせていただきたいのです。市井の暮らしや平民の娯楽など、陛下がご存じないお話をたくさんできると思います」
高天帝は、朱華の申し出に驚いていた。
自分に話しかけてくる華綾の采女といえば、「妃になりたい」という欲が透けて見える者ばかりだったが、彼女は違うのだろうか。
だが、本心はわからない。そんなふうに考えながら、高天帝は揶揄するように言った。
「もしかしてそれは、私を篭絡するために考えた申し出か? なるほど、さすが内蔵頭の娘ともなれば、他の采女とは一味違う」
「末端の采女に『殺してくれ』と口になさる龍帝陛下が、精神的にひどく疲弊していらっしゃることは、わたくしにも理解できます。そのような状況で夜伽に意識がいかないのは当然でございますし、些少なりとも気晴らしをすればお気持ちも上向きになるのではないかと思ったのです。いかがでしょうか」
「本心だ。皇帝としてあのような発言が不謹慎なのは承知しているが、心の内に常に厭世観があるのは否定できない」
すると朱華はぐっと表情を引き締め、思いがけないことを言う。
「あれから陛下のお言葉の意味を、ずっと考えておりました。わたくしがこのようなことを申し上げるのは僭越ではございますが、陛下はお身体のご不調はもちろんのこと、日々の楽しみがないからこそあのような発言をされているのではありませんか?」
「それは……」
日々の楽しみなど、考えてみればまったくない。
毎朝起きて身支度をし、奏上された文書に目を通したあと朝議に参加して、謁見に応じる。決められた祭祀儀礼をこなし、ときには宴に出席して一日が終わる。
娯楽といえば華綾の采女の歌や舞、書画を見ることくらいだ。そんなふうに考えながら、高天帝は口を開く。
「そなたの言うとおり、私の生活の中で何かを楽しむという要素はほとんどない。だがそれは、皇帝ならば当たり前のことだ。食膳にもさして興味はないし、どこかの離宮を訪れた際は馬で遠駆けをしたりはするが、それはその土地の視察も兼ねているから、楽しみというのとは違う」
それを聞いた彼女が、得心のいった顔で言った。
「龍帝陛下のご身分であれば、日常のすべてがご政務となってしまうのは当然でございます。よろしければ、わたくしに毎日陛下とお話しする時間をいただけないでしょうか」
「話?」
「はい。微力ながら、陛下の気鬱をお慰めするお手伝いをさせていただきたいのです。市井の暮らしや平民の娯楽など、陛下がご存じないお話をたくさんできると思います」
高天帝は、朱華の申し出に驚いていた。
自分に話しかけてくる華綾の采女といえば、「妃になりたい」という欲が透けて見える者ばかりだったが、彼女は違うのだろうか。
だが、本心はわからない。そんなふうに考えながら、高天帝は揶揄するように言った。
「もしかしてそれは、私を篭絡するために考えた申し出か? なるほど、さすが内蔵頭の娘ともなれば、他の采女とは一味違う」
「末端の采女に『殺してくれ』と口になさる龍帝陛下が、精神的にひどく疲弊していらっしゃることは、わたくしにも理解できます。そのような状況で夜伽に意識がいかないのは当然でございますし、些少なりとも気晴らしをすればお気持ちも上向きになるのではないかと思ったのです。いかがでしょうか」
