すると彼女は、控えめな声音で答える。

「確かに以前の暮らしとはまったく違いますが、花を育てることには喜びと達成感がございます。土を耕し、雑草を抜いて、苗の様子を見ながら肥料や水を与えれば、あのように美しく咲いてくれるのです。手をかけた分だけ応えてくれるのですから、とてもやりがいのある仕事だと思います」
「だが令嬢なら花を育てるのはもちろん、掃除や洗濯なども今までやったことがなかったであろう」
「どれも大切なお勤めです。仕事として与えられた作業なのですから、まったく苦ではございません」

それを聞いた高天帝は、ふと朱華の本心を探りたくなって問いかける。

「だがそうした奉職は表向きのもので、実際にそなたは父親から別の密命を帯びてきたのではないか?」
「えっ?」

一瞬ドキリとしたように肩を揺らした彼女だったが、「私の妃となれるよう、色仕掛けで落とせとでも言われたのだろう」という高天帝の言葉に、じわりと頬を染めて言う。

「確かに父の意向は……突き詰めればそうなのかもしれません。ですが采女の方々は美貌にも技芸にも優れた方が多いにもかかわらず、龍帝陛下はどなたも召し上げたことはないと伺っております。そうした状況の中、わたくしごときが陛下のお目に適うわけがないことは重々承知しております」
「ほう、ならばそなたには、私の妃になりたいという気持ちはないと?」
「それは……」

返す言葉に詰まる朱華を見つめた高天帝は、思わず吹き出す。

「意地の悪い質問だったな。朱華の申すとおり、私は采女を召し上げるつもりはない。そんな気になれないというほうが正しいが」
「大変失礼ながら、それはお身体のご不調が原因なのでしょうか」

朱華がこちらに向き直り、意を決した様子で言葉を続ける。

「先日、龍帝陛下がわたくしに『早く私を殺してくれ』とおっしゃったときは、驚きました。ご不調であらせられることは最初に謁見したときのご様子から何となく感じておりましたが、まさかあのような発言をされるとは思わなかったのです。改めてお伺いいたしますが、あのお言葉は本心なのでしょうか」