それを聞いた高天帝は、すぐにその理由を悟って口を開いた。
「大方他の采女たちの作業を押しつけられ、わざと宴に参加できなくさせられたのだろう。その者たちの名を申せ、尚侍に命じて処分させる」
采女は少なくない給金を国から受け取っているため、仕事を怠けて自分より下の者に押しつけるなど言語道断だ。
するとその言葉を聞いた彼女が、慌てて言う。
「わたくし自身の要領が悪いために、宴の時間までに仕事が終わらなかったのです。誰かに作業を押しつけられたということはございません」
「しかし」
「本当でございます」
頑なにそう言い張る朱華を見下ろし、高天帝は半ば呆れながらつぶやく。
「そなたに不当を強いる者を処罰する絶好の機会であるのに、酔狂なことだ。内蔵頭の娘である事実を前面に押し出せば、手出しできる者などそういるまいに」
「…………」
「まあ、いい。――立て」
彼女が驚いたように「えっ?」と顔を上げ、高天帝はそんな彼女に手を差し伸べながら言葉を続ける。
「ここで会ったのも何かの縁だ。しばし私の話し相手になってくれないか」
手をつかまれた朱華が躊躇いの表情で立ち上がり、高天帝の目線を受けた烈真が心得たように一礼して離れていく。
彼が少し距離を取ったのを確認した朱華がこちらに視線を戻し、戸惑ったように問いかけてきた。
「龍帝陛下は、宴の席に戻られなくてよろしいのでしょうか。皆さまがお出ましを心待ちにしていおられるのでは」
「既に義務は果たした。私がいなくても、彼らは夜半過ぎまで盛り上がるだろう。いつものことだ」
「そ、そうなのですか」
互いの間に、沈黙が満ちる。
橋から見下ろす池には蓮の花がいくつもあったが、今は夜のために花弁が閉じた状態だった。辺りには濃い水の匂いが漂っていて、虫の鳴き声が耳に心地いい。
高天帝は、橋の欄干に手を触れつつ口を開いた。
「そなた、内蔵頭の屋敷で何不自由なく暮らしていたのだろう。皇極殿に出仕して、想像とは違う日常に戸惑ったのではないか」
「大方他の采女たちの作業を押しつけられ、わざと宴に参加できなくさせられたのだろう。その者たちの名を申せ、尚侍に命じて処分させる」
采女は少なくない給金を国から受け取っているため、仕事を怠けて自分より下の者に押しつけるなど言語道断だ。
するとその言葉を聞いた彼女が、慌てて言う。
「わたくし自身の要領が悪いために、宴の時間までに仕事が終わらなかったのです。誰かに作業を押しつけられたということはございません」
「しかし」
「本当でございます」
頑なにそう言い張る朱華を見下ろし、高天帝は半ば呆れながらつぶやく。
「そなたに不当を強いる者を処罰する絶好の機会であるのに、酔狂なことだ。内蔵頭の娘である事実を前面に押し出せば、手出しできる者などそういるまいに」
「…………」
「まあ、いい。――立て」
彼女が驚いたように「えっ?」と顔を上げ、高天帝はそんな彼女に手を差し伸べながら言葉を続ける。
「ここで会ったのも何かの縁だ。しばし私の話し相手になってくれないか」
手をつかまれた朱華が躊躇いの表情で立ち上がり、高天帝の目線を受けた烈真が心得たように一礼して離れていく。
彼が少し距離を取ったのを確認した朱華がこちらに視線を戻し、戸惑ったように問いかけてきた。
「龍帝陛下は、宴の席に戻られなくてよろしいのでしょうか。皆さまがお出ましを心待ちにしていおられるのでは」
「既に義務は果たした。私がいなくても、彼らは夜半過ぎまで盛り上がるだろう。いつものことだ」
「そ、そうなのですか」
互いの間に、沈黙が満ちる。
橋から見下ろす池には蓮の花がいくつもあったが、今は夜のために花弁が閉じた状態だった。辺りには濃い水の匂いが漂っていて、虫の鳴き声が耳に心地いい。
高天帝は、橋の欄干に手を触れつつ口を開いた。
「そなた、内蔵頭の屋敷で何不自由なく暮らしていたのだろう。皇極殿に出仕して、想像とは違う日常に戸惑ったのではないか」
