どこか皮肉げな彼の発言に、朱華は賛同もできずに押し黙る。

自分が新顔いびりをされているのを見抜かれていることに、複雑な気持ちになっていた。しかも彼はこちらを見下ろし、思いがけないことを言う。

「そなた、風峯の娘だろう。奴に私を殺せとでも命じられてきたか」
「……っ」

斬り込むような発言に、朱華は虚を突かれて言葉を失くした。
もしかすると高天帝は風峯の思惑に既に気づいており、その娘として出仕した自分のことを疑っているのだろうか。

手のひらに汗がにじみ、胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、朱華は礼を取って答えた。

「そのようなこと、あるはずがございません。内蔵頭である義父(ちち)は龍帝陛下の忠実な臣下、わたくしもまた、陛下に誠心誠意お仕えするためにこうして華綾の采女となったのです。龍帝陛下がお疑いになるのは、義父の行動に何か思うところがおありだからでしょうか」
「宮廷内に、私の退位を望む者が一定数いることはわかっている。このように病み衰えている上、後を継ぐ子もいないのだ。とっとと死んでもらい、新たな帝を即位させたいと考えるのも当然だろう」
「そのような」

抗弁する朱華の目の前に、ふいに高天帝が片膝をつく。

思わず顔を上げ、間近で秀麗な顔立ちを目にした朱華は、呼吸をすることも忘れて魅入られたように彼を見つめた。
高天帝がやるせなく微笑み、言葉を続けた。

「そなたでもいい、早く私を殺してくれ。――私はもう、人の世に飽き飽きしているんだ」