色とりどりの落ち葉がある小径はまるで錦のようで、沓で踏みしめるこちらを見つめ、彼が口を開いた。
「十二月に執り行われる婚礼の儀だが、近隣諸国の王族から参列するという返事が続々と届いている。かなり華やかなものになりそうだ」
「何だか緊張してしまいます。千黎さまは端整なお姿ですから、その隣にわたくしが立つことに少々気が引けて」
「婚礼の儀は、朱華が私の最愛の人間だと公に証明するものだ。胸を張って立てばいい」
高天帝は「それに」と言い、こちらの頬に触れて言う。
「皇后の装束を着たそなたは、きっと誰もが目を瞠るほど美しいだろう。他の誰でもない私が一番楽しみにしているのだということを、心に留めておいてほしい」
彼の眼差しは甘やかで、それを見た朱華はときめきで胸がいっぱいになる。
龍帝は複数の妃を持つのが普通で、それには明確な序列があるそうだ。皇后としてもっとも重要視されるのは家柄であり、平民出身の朱華は慣例でいえば妃止まりのはずだが、他に妻を娶る気がない高天帝は当然のように「皇后にする」と宣言した。
(この方は、いつだってわたしが欲しい言葉をくれる。あれほど神々しい龍である千黎さまが、わたし一人を愛してくれるなんて信じられない)
彼が黒龍に変化したのは一度だけだが、神秘的な姿には圧倒的な威厳と存在感があり、朱華の中に鮮烈な印象を残した。
だが畏怖に慄いていた他の者たちとは違い、巨大な姿に恐怖を一切感じなかったばかりか、遠い昔に見たことがあるような気がして懐かしさをおぼえたのが不思議だった。
朱華は頭ひとつ分高い位置にある高天帝を見上げ、その秀麗な美貌をじっと見つめる。すると彼が不思議そうに問いかけてきた。
「どうした?」
「こんなことを言うのはおかしいのですけど、わたくし、千黎さまに遠い昔に会ったことがある気がするのです。そのときもとても大切な存在で、龍のお姿を何よりも美しいと感じていて」
「――……」
高天帝が目を見開き、まじまじとこちらを見つめてきて、気恥ずかしさがこみ上げた朱華は取り繕うように言う。
「ほ、本当におかしなことを言って、申し訳ございません。わたくしは……」
その瞬間、突然身体を引き寄せて腕の中にきつく抱きしめられた朱華は、驚きに言葉を途切れさせる。
こちらの首元に顔を埋めた彼が、万感の想いをにじませた声でささやいた。
「そなたの発言を、おかしなことだとは思わない。むしろ私と朱華は、断ちがたい縁で繋がっているのだと確信できた」
「そ、そうでしょうか」
「ああ」
揺るぎない高天帝の声音に、朱華の中に安堵の感情が広がる。
遠い昔に会った記憶が本当なら、それは今生ではないだろう。だが再び巡り合い、こうして共にいられることを、何より幸せだと感じる。
腕を上げた朱華は、彼の着物に焚きしめられた香の匂いを吸い込みながらその身体を抱き返す。
そして温かなぬくもりを感じ、この先も愛する人と一緒にいられる奇跡をじっと噛みしめた。
「十二月に執り行われる婚礼の儀だが、近隣諸国の王族から参列するという返事が続々と届いている。かなり華やかなものになりそうだ」
「何だか緊張してしまいます。千黎さまは端整なお姿ですから、その隣にわたくしが立つことに少々気が引けて」
「婚礼の儀は、朱華が私の最愛の人間だと公に証明するものだ。胸を張って立てばいい」
高天帝は「それに」と言い、こちらの頬に触れて言う。
「皇后の装束を着たそなたは、きっと誰もが目を瞠るほど美しいだろう。他の誰でもない私が一番楽しみにしているのだということを、心に留めておいてほしい」
彼の眼差しは甘やかで、それを見た朱華はときめきで胸がいっぱいになる。
龍帝は複数の妃を持つのが普通で、それには明確な序列があるそうだ。皇后としてもっとも重要視されるのは家柄であり、平民出身の朱華は慣例でいえば妃止まりのはずだが、他に妻を娶る気がない高天帝は当然のように「皇后にする」と宣言した。
(この方は、いつだってわたしが欲しい言葉をくれる。あれほど神々しい龍である千黎さまが、わたし一人を愛してくれるなんて信じられない)
彼が黒龍に変化したのは一度だけだが、神秘的な姿には圧倒的な威厳と存在感があり、朱華の中に鮮烈な印象を残した。
だが畏怖に慄いていた他の者たちとは違い、巨大な姿に恐怖を一切感じなかったばかりか、遠い昔に見たことがあるような気がして懐かしさをおぼえたのが不思議だった。
朱華は頭ひとつ分高い位置にある高天帝を見上げ、その秀麗な美貌をじっと見つめる。すると彼が不思議そうに問いかけてきた。
「どうした?」
「こんなことを言うのはおかしいのですけど、わたくし、千黎さまに遠い昔に会ったことがある気がするのです。そのときもとても大切な存在で、龍のお姿を何よりも美しいと感じていて」
「――……」
高天帝が目を見開き、まじまじとこちらを見つめてきて、気恥ずかしさがこみ上げた朱華は取り繕うように言う。
「ほ、本当におかしなことを言って、申し訳ございません。わたくしは……」
その瞬間、突然身体を引き寄せて腕の中にきつく抱きしめられた朱華は、驚きに言葉を途切れさせる。
こちらの首元に顔を埋めた彼が、万感の想いをにじませた声でささやいた。
「そなたの発言を、おかしなことだとは思わない。むしろ私と朱華は、断ちがたい縁で繋がっているのだと確信できた」
「そ、そうでしょうか」
「ああ」
揺るぎない高天帝の声音に、朱華の中に安堵の感情が広がる。
遠い昔に会った記憶が本当なら、それは今生ではないだろう。だが再び巡り合い、こうして共にいられることを、何より幸せだと感じる。
腕を上げた朱華は、彼の着物に焚きしめられた香の匂いを吸い込みながらその身体を抱き返す。
そして温かなぬくもりを感じ、この先も愛する人と一緒にいられる奇跡をじっと噛みしめた。
