一方で、奇妙な縁が続く者もいる。
内儀の祢音が、朱華の筆頭侍女として仕えてくれることになったのだ。華綾の采女の中で役職付きだった彼女だが、実は皇宮の秩序を守る内衛司の一人らしい。
目端が利く上、腕に覚えもあるという祢音は朱華の護衛兼侍女に最適だと考えた高天帝が任命したもので、彼女は折り目正しく礼を取って言った。
「これからは朱華さまの身の周りのお世話のみならず、不逞の輩から御身をお守りするべくお傍に仕えさせていただきます。どうぞわたくしのことは、祢音とお呼び捨てください」
これまで目上の存在だった祢音に丁寧な態度を取られることになかなか慣れなかった朱華だが、ひと月が経った今はだいぶ自然に話せるようになっている。
内衛司という仕事柄、皇宮内の事情に精通している彼女はあらゆる面で頼りになる存在で、朱華はこれから時間をかけて信頼関係を築いていきたいと考えていた。
女官からの講義が終わった午後、部屋に戻ろうとした朱華に祢音が話しかけてくる。
「龍帝陛下より、庭園を散歩しないかとのお誘いが来ております。お召し変えをなさいますか?」
「いえ。このまま参ります」
皇宮を出た朱華は、彼女と共に高天帝がいるという松嶺園に向かう。
すると黒い袍を着た彼がいて、こちらを見て微笑んで言った。
「女官の講義を受けていると聞いたが、ようやく終わったのか?」
「はい。お待たせして申し訳ございません」
秋が深まってきたこの時季、松嶺園は紅葉の季節だ。
欅やヤマボウシ、楓やハゼノキといった木々が緑と黄色、真紅に色づき、何ともいえず美しい。
その中に佇む高天帝は、相変わらず端整な姿だった。ここ最近の彼は顔色がよくなり、出会った当初の気だるい雰囲気は一切ない。
病が癒えたというのは本当らしく、体表の半分ほどを覆っていた龍鱗もきれいになくなっていた。
それは朱華という伴侶と出会ったことで体内の気脈が整ったからだというが、こちらにはその実感がなく半信半疑だ。
(平民出身でこれといって特技のないわたしが、この方の病を癒やしてあげただなんて信じられない。でも……)
高天帝が健やかでいてくれて、うれしい。
何の憂いもなく未来を信じられる今の状況は、朱華にとってこの上ない幸せだった。烈真と祢音が一礼して離れていき、朱華は高天帝と連れ立って庭園内を歩き出す。
内儀の祢音が、朱華の筆頭侍女として仕えてくれることになったのだ。華綾の采女の中で役職付きだった彼女だが、実は皇宮の秩序を守る内衛司の一人らしい。
目端が利く上、腕に覚えもあるという祢音は朱華の護衛兼侍女に最適だと考えた高天帝が任命したもので、彼女は折り目正しく礼を取って言った。
「これからは朱華さまの身の周りのお世話のみならず、不逞の輩から御身をお守りするべくお傍に仕えさせていただきます。どうぞわたくしのことは、祢音とお呼び捨てください」
これまで目上の存在だった祢音に丁寧な態度を取られることになかなか慣れなかった朱華だが、ひと月が経った今はだいぶ自然に話せるようになっている。
内衛司という仕事柄、皇宮内の事情に精通している彼女はあらゆる面で頼りになる存在で、朱華はこれから時間をかけて信頼関係を築いていきたいと考えていた。
女官からの講義が終わった午後、部屋に戻ろうとした朱華に祢音が話しかけてくる。
「龍帝陛下より、庭園を散歩しないかとのお誘いが来ております。お召し変えをなさいますか?」
「いえ。このまま参ります」
皇宮を出た朱華は、彼女と共に高天帝がいるという松嶺園に向かう。
すると黒い袍を着た彼がいて、こちらを見て微笑んで言った。
「女官の講義を受けていると聞いたが、ようやく終わったのか?」
「はい。お待たせして申し訳ございません」
秋が深まってきたこの時季、松嶺園は紅葉の季節だ。
欅やヤマボウシ、楓やハゼノキといった木々が緑と黄色、真紅に色づき、何ともいえず美しい。
その中に佇む高天帝は、相変わらず端整な姿だった。ここ最近の彼は顔色がよくなり、出会った当初の気だるい雰囲気は一切ない。
病が癒えたというのは本当らしく、体表の半分ほどを覆っていた龍鱗もきれいになくなっていた。
それは朱華という伴侶と出会ったことで体内の気脈が整ったからだというが、こちらにはその実感がなく半信半疑だ。
(平民出身でこれといって特技のないわたしが、この方の病を癒やしてあげただなんて信じられない。でも……)
高天帝が健やかでいてくれて、うれしい。
何の憂いもなく未来を信じられる今の状況は、朱華にとってこの上ない幸せだった。烈真と祢音が一礼して離れていき、朱華は高天帝と連れ立って庭園内を歩き出す。
