SIDE:A / SIDE:B

「もう少しだけ、話しをしないか?」
 少し間が空いたものの、彼女からの返事が聞こえた。
「いいよ」
 たぶんお互い、誰かに話したくて、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。だから、この時点では別にオレである必要はなかったし、彼女である必要はなかっただろう。
「えっと、場所を変えない?外にだだ漏れだし、あの、近くの公園にでも行かないか?」
「それでいいよ。じゃあ、今からすぐ外に出るから」 
 オレは普通に部屋着のジャージ姿だったが、着替える必要性を感じない。たぶん彼女も同じだと思う。着飾って会う間柄ではない。そもそも、もう二度と会わない可能性の方が高いくらいだ。そう考えて、そのまま玄関に向かった。

 玄関のドアを開けると、すでに彼女は廊下に出ていた。予想通り、彼女は先ほど見たジャージ姿のままで、完全にスッピン。肩より少し長い黒髪は、後頭部で一つに纏められている。微塵も女性を感じない雰囲気であるが、それはオレにも言えることだった。特に何の特徴もない顔に、完全に校則通りの髪型。かろうじて寝癖はないが、上下で5千円もしない安物のジャージ姿だ。まだ寒いので、更にジャンパーを羽織っている。この深夜にコンビニに行くような格好を見て、彼氏にしたいと思う人はいないだろう。
 彼女はオレの姿を確認すると無関係の人との距離感のまま、こちらを気にする素振りもなく廊下を歩き始めた。その妙に堂々とした後姿を、オレは慌てて追い掛ける。どうにかエレベーターの前で追い付き、一緒に乗り込んだ。

 言葉を交わすこともなくエントランスを抜け、300メートルほど離れた場所にある公園に向かう。スタスタという擬音が見えそうな歩調でサンダルを履きこなし、無駄の無い動きで公園に着いた彼女がようやく振り向いた。自分の存在を忘れているのではないかと思い始めていたため、思わず安堵のため息を吐く。同時に彼女が口を開いた。
「女子校に通ってたから・・・男子相手だと、何を話せばいいのか分からなくて」
「え、あ、うん」
 私立の女子中学校に通っていたということだろう。それなら、同学年であっても面識がないことにも納得できる。

 公園は小学生までの子供達が駆け回る程度の大きさで、そのまんま土日や平日の夕方になれば賑やかになる。とはいえ遊具などは見当たらず、プラスチック製のベンチが2つあるだけだ。ひとまず、そのうちの1つに歩み寄ると砂埃やゴミを払い除け、彼女に対しそこに座るように促した。ベンチの端に彼女が座るのを確認すると、オレは反対側の端に腰を下ろした。

 沈黙が流れる。
 考えてみれば、今さらながらに初対面だ。
 もう二度と会うことはないかも知れないが、それでも自己紹介をするべきだろう。
「えっと、オレの名前は真鍋(まなべ) 大和(やまと)。短い時間かも知れないけど、よろしく」
 オレが自己紹介をすると、彼女もそれに倣った。
黒井(くろい) 華那(はな)、です」

 簡潔な自己紹介の後、お互いの境遇について話しを始める。そのために来たのだ。


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