SIDE:A / SIDE:B

 目標を設定し、その目標に向かって突き進む。
 しばらく忘れていた感覚が蘇ってくる。毎日が充実していて、自分の成長も感じることができていた。友達に囲まれて、一緒に頑張って。伴わなかった結果に、置いていかれた感覚に、敗北感に、劣等感に、自暴自棄になって、自分を見失った。その挙げ句、大切なもの、大切な人を失った。
 でも、まだ遅くはないと思うんだ。
 まだ、これから頑張れば届くと思うんだ。
 諦めなければ、全力で頑張れば、どこにだって手が届くと思うんだ。

 時折通り過ぎていた車のエンジン音が聞こえなくなり、シンという静寂が世界を支配する。その空間の中で、紙の上に文字を書き込んでいく。
 久し振りの感覚だ。
 集中力が限界突破する。
 それでも、その時間が永遠に続くことはなく、消えていた自我が再び外のエンジン音を捉える。音源は新聞配達のバイクだった。条件反射的に窓に視線を送るが、まだ外は暗い。まだまだ夜明け前だ。
「少しだけでも寝ておこうか」
 過度な睡眠不足は体調にも支障をきたす。さすがに、初日から倒れる訳ににはいかない。
 シャーペンを手放し、スタンドライトをオフにするとベッドに潜り込んだ。

 この日から、通学中も休憩時間中も勉強を始めた。本気度も、学習時間も、決して今年の受験生に負けていない。担任に過去問題を頼み込み、高校の参考書も購入した。削れるものが睡眠時間しかないため、毎日2、3時間しか寝ていない。よく、睡眠が記憶を定着させるために必要だと言われるが、あれは嘘だ。嘘と言い切ってしまうと語弊があるかも知れないが、少なくとも正しくはない。間違いなく、眠る前と後では、記憶の濃さが違っている。可能であれば、24時間ずっと起きていれば、記憶が薄れることはないのではないかと思うくらいだ。
 とは言え、どんなに理由を付けても睡眠が必要だということは理解しているし、間違いないと思う。ただ、上位陣との差を縮めるためにはこうするしかないのだ。元々の能力差があるにも関わらず、学習時間が同じだと追い付けるはずがない。それならば、せめて学習時間だけでも多くする必要がある。その方法は、寝ない以外にない。

 あの日から1ヶ月以上が過ぎ、7月に入った頃、担任から受け取った過去問題にチャレンジした。おそらく、勉強するまでの自分であれば、430点も取れれば十分だったはずだ。高校の範囲を考えれば420点以下の可能性もあった。

 自己採点の結果は、455点。


『 まだ時間はあるし、まだ頑張れる。と自分を鼓舞する。 』 ・・・ 76 へ

『 もう無理だ。時間も能力も足りない。と項垂れる。 』 ・・・ 91 へ