SIDE:A / SIDE:B

 ベッドに寝転び、目を閉じて今日のことを考えているうちに、いつの間にか眠っていた。電気を点けっ放しだったため浅い睡眠だったのか、数時間で何となく目が覚めた。机の上に置いたままの目覚まし時計は、3時35分を表示している。
 一眠りしたためか、すっかり目が覚めてしまっている。ベッドから起き上がり、着替えを持って部屋を出る。こんな時間ではあるが、風呂に入ってないことに気付いてしまった。気付いてしまったからには、どうしても風呂に入りたくなった。というか、朝までの時間を潰す必要があるし、これで30分ほど消費できるだろう。

 結局、潰れたのは本当に30分ほどで、両親が仕事で家を出て行くまでの4時間余りを無為に費やすことになった。
 とはいえ、本当に何も考えずに過ごしていた訳ではない。これからどうすれば良いのかを考えていた。現実的に考えて、このまま引きこもり生活をする訳にはいかない。これからの人生を思えば、高校は卒業しておかなければならない。受験に失敗したバカでも、例え底辺の私立高校であっても進学しない訳にはいかない。ため息しか出ないが、万一のことを考慮して地元の私立高校は受けておいた。受験料がもったいないと思っていたが、何のことはない。

 両親が出勤して30分ほど。気分が落ち込んでいても腹は減る。自室から這い出して、冷蔵庫を漁ろうと思ってダイニングに行くと、テーブルの上に朝食が用意されていた。パックのグレープジュースにチョコレートのかかったパン、それに朝からプリンが付いている。全部オレが好きな食べ物ばかり。無言で励まされているようで嫌になる。面と向かって罵倒されてもつらいけど、こういう勝手な思いやりも心が痛い。こういうとき、どうしてもらうのが一番いいのだろうか。

 10時過ぎ。余りにもやることがなくて、家を出た。昨日と同じジャージ姿だけど、今日は上着にパーカーを羽織っている。それと、寝癖は直しておいた。
 昨日と同じように数分歩くと最寄の公園に到着した。時間も時間だし、よちよち歩きの子供を連れたお母さんの姿もない。昨日と同じベンチに視線を向けると、膝を抱えて座っている人物がいた。昨日とは違い、今日は厚手のパーカーを羽織っている。考えることも、環境も同じなんだなと思い、ゆっくりとベンチに歩み寄った。

「おはよう」
 声を掛けるとネコ耳が付いたパーカーが揺れた。
「おはよう」
 昨日と同じようにベンチの端に座る。黒井の表情を見ると、何があったのかは想像ができる。遠巻きに様子を窺う親もいれば、責任を追求する親もいる。昨日目にした大きな瞳は腫れぼったく潰れている。気付いていないふりをして訊ねる。
「眠れなくてさ、朝まで考えていたんだけど、神楽坂高校に進学するよ。するしかない、が正しいけど」
「・・・私も」
「え?」
 黒井は振り返って言った。
「私立は神楽坂高校しか受けてなかったから」

 二人の距離が1メートルに縮まっていた。


『 「そうなんだ」と言って聞き流す。 』 ・・・ 7 へ

『 「じゃあ、一緒に登校しようか?」と提案する。  』 ・・・ 30 へ