SIDE:A / SIDE:B

 チラリと視線を向けると華那の視線とぶつかった。言葉は無くても、華那の考えていることは分かる。きっと、華那にもオレの思考が読めたのだろう。来店客が自動ドアを開けた瞬間、2人でゲームセンターの外に飛び出した。突然のことで状況が理解できなかった男達は、追い掛けるかどうか躊躇して出遅れる。

 20メートルのリード。
 たった数秒の猶予。
 華那の手を強く握って商店街を疾走する。
 帰宅途中のサラリーマンを追い越し―――
 騒いでいる高校生達の間をすり抜ける。
 振り返ると未だに追い掛けてきていた。
 でも、少しずつ引き離している。
 裏通りに抜ける路地に入り込み、すぐの場所にある非常階段を上る。
 下からは見えない位置に2人で並んで息を潜める。
 ほんの数秒後、男達が角を曲がって路地に入って来た。しかし、もう既にオレ達の姿は見えない。男達はそこで何か話し合っていたが、ここまで聞こえてくるような舌打ちをして去って行った。

「行ったかな?」
 オレが口を開くと、華那が静かにするようにと人差し指で口を塞いでくる。オレは慌てて声のトーンを落とすと、身を屈めるようにして階段に沈み込んだ。確かに、まだそんなに遠くには行っていないはずだし、戻ってくる可能性も否定できない。

 冷たく薄暗い非常階段に座っていると、何となく不安になってくる。
 足下が凍っていくような感覚。
 周囲に纏わりつく暗闇。
 もしかすると、あの男達が路地から出た所で待ち伏せしているのではないだろうか。華那が掴まって連れて行かれるのではないだろうか。いつまでも追い掛けられるのではなかろうか。逃げ切れるのだろうか。大丈夫だろうか。本当に大丈夫なのか―――――自分はこれでいいのだろうか。自分の将来は、未来は、一体どうなるんだろうか。オレは、オレはっ!!
 負の感情に飲み込まれそうになっていたが、不意に温もりを感じて我に返る。隣に座っていた華那が、オレの肩に自分の頭を寄せていた。そちらに視線を落とすと、華那が微塵も不安を感じさせない表情で微笑んでいた。その笑顔を目にすると前を向く勇気が湧いてくる。不思議と現在の不安よりも、将来のあり方を考え始める。

 それから30分余りの時間を非常階段で過ごした。お互いの存在を感じながら・・・


 やっと自宅のマンションが見えてきたときには、すでに20時を回っていた。
 不慮の事故に遭ったとはいえ、華那の門限を1時間以上過ぎている。華那の話しぶりからしても、父親はかなり厳しい人物であることが想像できる。このまま、1人で帰してしまっても大丈夫だろうか。一緒に行って、遅くなった理由を説明した方が良いのではないだろうか?


『 ついて行って、遅くなった理由を説明する。 』 ・・・ 15 へ

『 ついて行くと余計に話しがこじれるので玄関で別れる。 』 ・・・ 42 へ