SIDE:A / SIDE:B

「・・・あのさ」
 とりあえず、声を出す。少なくとも声は届いたはずなのに、彼女は無感情の目でこちらを睨み付けている。オレはオレで、次の言葉が浮かばない。
 あーもう、イライラする。彼女の態度にも腹が立ってきた。今のオレは他人の心配ができる状況ではないのだ。親切心で声を掛けているのに、そんな目を向けられる意味が分からない。あー、もう面倒臭い。
「・・・ったく、だるいな」
 思わず口をつく。その言葉に対し、初めて彼女の表情が動いた。
「どうせ飛び降りるなら、こんな中途半端は高さじゃなく、あっちのビルの最上階から飛び降りろよ。そもそも、こんな街中で、他人に迷惑がかかる場所じゃなくて、岩山の崖から飛べよ。海に行って、自殺の名所で飛べよ。マジで迷惑。あーマジでムカついてきた。入試に落ちて目の前が真っ暗になってるのに、何で他人の心配しなきゃなんないんだよ」
 そう口走った瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
 その様子を目にすると同時に、分かってしまった。
 コイツ()落ちた、のだと。だから、飛び降りようとしたのだと。それほどまでに本気だったのだと。誰が何と言おうが、それほどに重大な出来事だったのだ。

 彼女が目を伏せ、椅子から下りた。そして、ベランダの間にある隔て板の前に、こちら向きに膝を抱えて座る。
「今日の正午に行きたかった高校の合格発表があったんだけどさ、自分の番号が見当たらなくて。仲が良かった友達は推薦で決まっていたり、模試の点数も良い子ばかりで、とても落ちるとは思えない。自分だけが落ちてしまって、悔しいよりも先に恥ずかしくて。こんな自分が、生きていることが恥ずかしくて。こんな自分に生きている資格なんかない、よ」
 その気持ちは痛いほど理解できる。正に自分も同じ状況だ。悔しいよりも恥ずかしい。

 オレも覗き込んでいた頭を引っ込めると、隔て板に頭を預けるようにして腰を下ろした。
「これから、一体どうすればいいんだろうな。もう、友達には会えない。会う資格がない。そもそも、どのツラ下げて会えばいいんだ?ヘラヘラ笑いながら『落ちちゃった』って言えばいいのか?深刻な表情で『死にたい』って言えばいいのか?こんなことで、って言うヤツがいるかも知れないけど、オレにとってはそんな軽い話じゃないんだよ」
 自嘲気味の独白に対し、隔て板の向こう側から彼女が応えた。
「うん、そうだね。そうなんだよね。他
 でもさ、まさか同じ境遇の人が隣に住んでいたなんて思わなかった。あそこで目が合わなかったら、間違いなく飛んでた。今頃は救急車やパトカーが集って大騒ぎになっていたと思う。ちょっと冷静になったし、もう、今すぐ飛び降りようとは思ってない。もう少し考えてから決めることにする」
 とりあえず、保留状態になったということのようだ。自分ももう少し考えて、これからどうするか決めよう。



『 「もう少しだけ、話しをしないか?」と声を掛けた。 』 ・・・ 83 へ

『 「そうなんだ。オレも自分のことについて少し考えてみるよ」と言って部屋に入った。 』 ・・・ 93 へ