口を閉ざして、自分の世界に入り込んでいる黒井。その1・5メートル横で、ぼんやりと高層マンションを眺める。30階あたりの非常階段から飛んだら、確実に死ねるな。とか、何となく想像する。真昼間の公園のベンチに若い男女が並んで座り、一人は膝を抱え、もう一人は空を仰いでいるとか、別れ話をしているように見えるかも知れない。でも、実際は初対面で、話題もないから黙って座っているだけんだけどな。なんて思っているうちに、空気が少しずつ冷たくなってきた。3月は意外と寒い季節だ。春なんて言葉に誤魔化されているだけで、1年のうちで一番寒い1月、2月の隣なんだよな。陽が傾いてくると結構寒い。やがて、お迎え帰りの幼稚園児が、公園の中を走り始めた。もう、今日はここまでだな。
「あのさ、また明日、ここで会えるか?」
ちゃんと聞いていたのか、膝の間に埋まっていた黒いの頭が浮き上がる。
「うん、いいけど・・・」
オレは一度大袈裟に頷くと、周囲を駆け回る子供達を目で追う。
「人も増えてきたし、そろそろ帰るか?」
黒井は両足で地面を踏み締めて立ち上がる。それを見て、すっかり根が生えていたベンチから離れた。
今度は黒井の後ろを黙ってついて行く。
数分歩いて自宅のマンションに戻ってきた。
エントランスを前にして見上げてみるが、あの高級マンションとは比べるべくもない。友達はみんな高級マンションの高層階の上級民で、オレ達は普通のマンションの中層階の庶民だな。などと自嘲してエントランスに入ると、一緒にエレベーターに乗り込む。行きのエレベーターの中で聞こえた浅い呼吸音は聞こえない。ある程度黒井も落ち着いたのだろう。でも、家族が帰宅して、また地獄の蓋が開く。もうとっくに地獄に落ちているのに、炎獄の釜に突き落とされて掻き回される。本人が一番分かっているのに、それなのに、もっと深い場所に沈められるんだ。
エレベーターを降り、廊下を歩いてそれぞれのドアの前に立ったところで、黒井にも自分にも声を掛ける。
「聞かなくてもいいことは聞き流せばいい。受け止める必要はないんだぞ」
黒井はこちらを見ると、相変わらずの笑顔で頷いた。
「じゃあ、絶対にまた明日」
やはりというか、母親は帰宅すると、真っ先に合否の確認をしてきた。連絡がつかなかったため急いで帰宅したらしい。他人からの連絡が煩わしくて、自分でスマートフォンの電源を切っていたことを思い出す。合格することを疑っていなかったようで、結果を伝えたら言葉を失っていた。いつもより早く帰宅した父は事前に連絡を受けていたのか、「大丈夫だ」と何度も口にしていた。何も大丈夫ではないし、大丈夫なはずがない。いつもより豪華な夕食をお通夜のような雰囲気の中で食べ、早々に自室に戻った。
受験勉強中は定位置になっていた勉強机の椅子にいつものように座り、ポケットからスマートフォンを取り出した。
『 スマートフォンの電源を入れる。 』 ・・・ 25 へ
『 スマートフォンを放り投げ、ベッドに横になる。 』 ・・・ 63へ
「あのさ、また明日、ここで会えるか?」
ちゃんと聞いていたのか、膝の間に埋まっていた黒いの頭が浮き上がる。
「うん、いいけど・・・」
オレは一度大袈裟に頷くと、周囲を駆け回る子供達を目で追う。
「人も増えてきたし、そろそろ帰るか?」
黒井は両足で地面を踏み締めて立ち上がる。それを見て、すっかり根が生えていたベンチから離れた。
今度は黒井の後ろを黙ってついて行く。
数分歩いて自宅のマンションに戻ってきた。
エントランスを前にして見上げてみるが、あの高級マンションとは比べるべくもない。友達はみんな高級マンションの高層階の上級民で、オレ達は普通のマンションの中層階の庶民だな。などと自嘲してエントランスに入ると、一緒にエレベーターに乗り込む。行きのエレベーターの中で聞こえた浅い呼吸音は聞こえない。ある程度黒井も落ち着いたのだろう。でも、家族が帰宅して、また地獄の蓋が開く。もうとっくに地獄に落ちているのに、炎獄の釜に突き落とされて掻き回される。本人が一番分かっているのに、それなのに、もっと深い場所に沈められるんだ。
エレベーターを降り、廊下を歩いてそれぞれのドアの前に立ったところで、黒井にも自分にも声を掛ける。
「聞かなくてもいいことは聞き流せばいい。受け止める必要はないんだぞ」
黒井はこちらを見ると、相変わらずの笑顔で頷いた。
「じゃあ、絶対にまた明日」
やはりというか、母親は帰宅すると、真っ先に合否の確認をしてきた。連絡がつかなかったため急いで帰宅したらしい。他人からの連絡が煩わしくて、自分でスマートフォンの電源を切っていたことを思い出す。合格することを疑っていなかったようで、結果を伝えたら言葉を失っていた。いつもより早く帰宅した父は事前に連絡を受けていたのか、「大丈夫だ」と何度も口にしていた。何も大丈夫ではないし、大丈夫なはずがない。いつもより豪華な夕食をお通夜のような雰囲気の中で食べ、早々に自室に戻った。
受験勉強中は定位置になっていた勉強机の椅子にいつものように座り、ポケットからスマートフォンを取り出した。
『 スマートフォンの電源を入れる。 』 ・・・ 25 へ
『 スマートフォンを放り投げ、ベッドに横になる。 』 ・・・ 63へ



