SIDE:A / SIDE:B


 倍率が1よりも高い以上、自分と同じ状況に直面している人は数え切れないほどいるだろう。
 こうして、発表と同時にスマホやパソコンで自分の受験番号を探している人の中に、同じ表情をしている人が数万人単位で存在しているに違いない。

 確かに、100パーセント絶対というものはない。
 前日は早く就寝した。
 グッスリと眠ることができた。
 体調は悪くなかった。
 いや、万全だったと言っても過言ではない。
 1時間前には会場に到着していた。
 周囲の受験者は静かで態度に問題がある人はいなかった。
 問題は難しくなかった。
 解等欄を間違っていることもない。
 何もかも順調だった。
 全てが思い通りだった。
 
 そして合格発表当日の今日、12時ジャスト。
 志望校のホームページに掲示された合格者の受験番号を確認する。
 確認した。
 一緒に受験した友達。
 ちょっと好きだった同級生。
 一緒の学校に進学して楽しい高校生活をおくる。
 あの子と一緒に帰ったりして、とか。
 そんな明るい未来。
 そんな理想的な世界が一瞬で消え去った。
 番号が、無かった。
 自分の番号だけが無かった。

 頭が真っ白になった。
 何をしているのか分からなくなった。
 どうすればいいのか分からなくなった。
 思考が停止した。
 時間が動かなくなった。
 意味不明な焦燥感と危機感が襲ってくる。
 何もかもが終わった気がする。
 絶望感。
 虚無感。
 自己否定。
 自分の存在価値を否定する。

 リストカットする人の気持ちが理解できる。
 衝動的に飛び降りる人の気持ちに賛同する。


 突然、くぐもった音が耳に届いた。
 何かが割れる音だった。
 築15年以上経ったものの、この自宅マンションは防音性が高い。現在と違い資材が安かったため、鉄筋コンクリート造の壁は分厚い。それでも隣の部屋まで低音で響くということは、かなり大きい物が派手に割れたということになる。何となくそんなことを考えていると、今度は壁に振動があり、先ほどよりも大きい音が響いてきた。そして、その直後、今度は叫び声が聞こえた。
 何かの事件だろうか。
 そう思った瞬間、隣のベランダ側の窓が開け放たれてサッシに激突し、ガンッという衝撃音と同時に窓がビリビリと振動した。数秒もしないうちに、ベランダ側から叫び声が聞こえた。いや、若い女性が絶叫した。何を叫んでいるのかは分からないが、それでも、ただ事ではないということだけは理解できた。
 隣に誰が住んでいるのかは知らない。両親と共に10年以上住んでいるが、隣の住民と顔を会わした記憶はほとんどない。家族構成も知らないし、廊下ですれ違っても分からないだろう。そんな隣人が、ベランダで叫んでいる。




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『 何か事件が起きているのかも知れないのでベランダに出て確認する 』 ・・・ 41 へ