「えー!じゃあ、(けん)は、美化委員なの⁉︎いっちゃんと同じ?」
「そう」
 着いた場所は、うちの近所で一番大きいショッピングモール、マリンモールだった。
『……あ。雪宮(ゆきみや)さん』
 声が聞こえたのだろうか。
 雪宮(ゆきみや)さんは、こちらを振り向く。
 俺に気づくと、とてもびっくりした顔をした。
 そして、すぐに友達のほうを向いて、なにかを話す。
 え……⁉
 雪宮(ゆきみや)さんは、こちらに向かって歩いてきた。
 ……スマホを持って。
「ねえ。……葉月(はづき)、だよね?」
『え、あ、……うん』
 雪宮(ゆきみや)さんは、何とも言えない顔で、こちらを見ている。
「なんで、ここに?……あ、幽霊みたいな?」
『あ、はい。そんな感じです』
 どうやら、俺のことが視える人、というのは、雪宮(ゆきみや)さんのことだったみたいだ。
「そう、なんだ……」
『なんか、天音(あまね)さん、っていう人……っていうか、天使が、ここに俺を送ってきた、っていうか……。なんか、俺のことが唯一視える人と一緒に行動しろ、みたいなこと言われて……。……っていうか、雪宮(ゆきみや)さん、嫌、ですよね。俺なんかと、46日くらい、一緒にいるのって』
「別に、嫌じゃないけど。……そういえばさ、なんで『雪宮(ゆきみや)さん』なの?あと、敬語だし。雪宮(ゆきみや)でいいよ。あと、タメ口にしてよ。……っていうか、私、よく考えたら、中学の時、敬語だった、よね。ごめん、敬語のほうが良い?」
『いや、大丈夫、です』
 俺が雪宮(ゆきみや)さんと呼んでいるのに、特に理由はない。
 ただ、雪宮(ゆきみや)さんって、お嬢様っていうイメージがあるし、頭もよくて、さん付けのほうが良いのかな、って……。
 俺とは、生きてる世界が違う、っていうか……。
 それに、雪宮(ゆきみや)さんと同じ小学校だった(けい)も、さん付けで呼んでたし。
「じゃあ、決まりね!これからは、雪宮(ゆきみや)って呼んでね!あと、敬語禁止!」
 話してみると、おしゃべりなんだということが分かる。
 ……田所(たどころ)さんが美術の授業の時に言っていたことが分かった気がする。
 盗み聞きなんだけど。

「私さ、伊紗(いさ)ちゃんに、校外学習の時に『ゆきって、意外と口悪いよね』って言われたんだよね」
「私も、芽依(めい)のこと、小学校の時は、おしとやかなお嬢様だと思ってたよー。ほら、傘もなんかお嬢様みたいな感じだったし。で、話したら、意外と……『それな』とか言うし。そういえば、芽依(めい)がスマホ持ったのって、中学になってからだったっけ?」
「うん」
「……スマホは人を変えるのか」

「私ってさ、なんか、怖がられてるのかな……?」
『いや、そんなことは』
「小学校の時にさ、海野(うみの)に『雪宮(ゆきみや)』って読んだら怒られそう、って言われたんだよね」
 ……まあ、確かに。
『……今、何してるの?』
「友達と、ショッピング!伊紗(いさ)ちゃんと、はなと、サリちゃんと、志織(しおり)ちゃんと、有彩(ありさ)ちゃんと、このちゃんと、里奈(りな)ちゃん。有彩(ありさ)ちゃんとこのちゃんは、同じ小学校の子でね!6年の時に、仲良かったの」
 ふーん……。
「じゃあ、着いてきても良いよ?どうせ、みんなには見えないし。……あ、それとも、適当にブラブラしとく?どっかで待ち合わせでもして。……私、みんなに、ちょっと電話きたから抜ける、って言ってるからさ。さすがに長いと怪しまれるし」
 あ、だからスマホ持ってたんだ……。
『じゃあ、どっかで待ち合わせ……』
「……午後6時くらいに瀧宮駅集合ね!」
 勝手に集合場所も時間も決められる。
 俺の返事を待たずにカフェに戻っていく雪宮(ゆきみや)
 雪宮(ゆきみや)、俺が視えても、全然驚かなかったな。
 ちょっとびっくり。
「じゃあ、映画行こっか!」
「うん」
 雪宮(ゆきみや)たちがカフェから出て来る。
 俺は、雪宮(ゆきみや)たちが映画館に入っていくのを見てから、適当に街を散策することにした。