本当に憂鬱。
 あー。早く死にたい。
 夜、暗い道を通りながら、そんなことを考える。
 そう思ったのは、今回が初めてではなかった。
 そうだなー。
 最初に思ったのは、確か、小6の時。
 母さんと父さんが喧嘩しているのを見て、俺なんていなければ良かった、と考えたのが、最初だったと思う。
 その後も、何回も何回も思った。
 テストの結果が良くなくて、母さんにめちゃくちゃ怒られたときとか。
 自分はなにもしていないのに『鈴村(すずむら)の教科書隠した』って濡れ衣を着せられたときとか。
 そのせいで、鈴村(すずむら)が怒って、首を絞められたときとか。
 『あー、早く消えたい。死にたい』って思った。
「……あ、葉月(はづき)…………」
 顔を上げると、そこには……。
雪宮(ゆきみや)、さん」
「ひ、久しぶり!元気だった?」
「まあ………」
 気まずい。
 気まずい。
 気まずい……。
「じゃ、じゃあ」
「……」
 向こうも、社交辞令で声を掛けてきただけなのだろう。
 笑顔は、見られなかった。
 ……ここだけの話。
 俺、中学の入学式で初めて見た時、一目ぼれしたんだ。
 ……まあ、誰とも付き合う気はない、って言ってたのを聞いて、終わった恋なんだけど。
「あーあ。最悪。もう……」
 死んでしまいたい。
 そんな声が、聞こえた、気がした。
 びっくりして、思わず振り向く。
 ……でも、誰もいなかった。
 ぼんやりしながら歩く。
 横断歩道にたどり着く。
 と、その時だった。
 猛スピードで、こちらにやってくる車が見えた。
 もし、ここで、飛び出したら……。

 ――死ねるのだろうか。

 そんな思いと共に、足が一歩前に出る。

  キキ―ッ

 車のブレーキ音。
 真っ白な光。
 そして……。
「はづ……」