なんとなく、ダルイ。
 そもそも、無理してこんな高校に入学したのが悪かったんだ。
 元々、勉強はあまり得意じゃない。
 でも、将来への不安と、家族からのお願いで、こんな賢い学校を受けてしまった。
 めちゃくちゃ勉強して、中学校では、100人中、学年10位以内に入れるようになった。
 ……まあ、賢い高校といっても、その高校の中では、一番偏差値が低い学部にしたんだけれど……。
 夏芽高校 体育科。
 一番偏差値が高いのは、夏芽高校 特進総合看護・福祉科。
 その次が、総合技術科だったと思う。
 あれ、生物工学科だったっけ。
 まあ、どっちでもいいや。
 この高校に入学したときのワクワクは、とっくになくなっている。
 テストでは、毎回下から数えたほうが良い順位だし。
 ただ……。
 この学校には、同じ中学からの人が、俺を含めて7人来ている。
 男子は、俺を含めて3人。
 普通科理数コースの、(たちばな) 颯真(そうま)と、英語科の、三波(みなみ) 太一(たいち)
 女子は、4人。
 全員、一年の時の最初のテストから、4位以内の人達。
 一番賢いのは、雪宮(ゆきみや) 芽依(めい)。特進総合看護・福祉科で、成績もトップらしい。
 その次が、看護・福祉科の、松野(まつの) 那々(なな)。
 ビジネスコミュニケーション科の、(せき) 美緒奈(みおな)
 芸術・服飾科の、有川(ありかわ) (ゆい)
 全員学科が違うから、全く関わりがない。
「あ、葉月(はづき)じゃん!おひさ」
 振り向くと、(せき)がいた。
 そういえば、中学を卒業してから、全く会っていなかったなと思う。
 見慣れない、(せき)のズボン姿。
 中学の時は、スカートとズボンを選べて、(せき)はスカートだった。
 しかも、リボン・ネクタイ・なし、も選べて、(せき)はリボンだった。
 しかし!この夏芽高校は、女子も男子も全員ズボンなのだ。
 そして、絶対にネクタイ。
 ……ジェンダーレス、だと思う。
「久しぶり、(せき)さん」
 (せき)とは、小学校が違う。
 小学校が違う女子の名前は、中3になっても、呼べなかった。
 どうしても、名字で呼んでしまう。
 (せき)雪宮(ゆきみや)が、そうだ。
葉月(はづき)、体育科だっけ。どう?」
「どう、って……。まあ、普通だよ。サッカーしか全然できないけど」
 別に、体育科が、偏差値めちゃくちゃ低い、って訳じゃない。
 というか、高い。
 偏差値は……。
 体育科で、70。
 特進総合看護・福祉科で、77〜78くらい。
「へー。ビジコミュはー、うん。なんか、難しいよ」
 ビジコミュ。
 俺には、絶対に向いていない。
 人とコミュニケーションをとるのが、苦手だし。
「あ、そういえばー。最近、芽依(めい)ちゃんに会ったよ。全然変わってなかった」
「そう、なんだ……」
 俺は、雪宮(ゆきみや)さんが、ちょっとだけ苦手だ。
 なにを考えているのかが全く分からないし。
 俺とは、違う次元の人間だし。
「……なんか、心配してたよー。『葉月(はづき)、夏芽でちゃんとやってるのかな~?』って。やっぱり、心配だよねー。中一の時なんてさ、葉月(はづき)、期末、50位だった時あったし」
「か、過去のことは、もういいじゃん」
 そう言いながらも、内心、すごくドキドキしていた。
 俺の成績は、下から数えたほうが早い。
 そのこと、みんなは……、同中の人達は、知っているのだろうか。
「あ、ヤバイ。もうすぐ授業始まる!……じゃあね、葉月(はづき)。またね~」
「うん。また……」
 ”また”なんて、あるのだろうか。