「ん？」
緑色のパルフェ――ずんだに乗って砂漠を疾走していたオレに向かって、同じく黒色のパルフェに乗ってオレの少し前方を走っていたリーサが右手を上げて合図した。
意味は『止まれ、警戒しろ』だ。
砂漠の只中を進むときは、砂よけでフードやゴーグルを目深にかぶるため、こうやって分かりやすい手信号で仲間に状況を知らせるものらしい。
今朝リーサから、簡単な合図を数種類習ったばかりだ。
なるほど、確かに砂嵐の中で意思疎通するのは難しいものな。
手綱を引っぱってずんだの走りを止めたオレは、望遠鏡を目に当てて前方の様子を確認しているリーサの傍にずんだを寄せた。
リーサがオレに自分の望遠鏡を手渡し、アゴをしゃくる。覗いてみろと言いたいのだ。
オレは、砂よけに目深に被っていたフードをズラすと、渡された望遠鏡を覗きこんだ。
「うっは、こりゃ凄ぇ……」
前方、遥か数キロメートル先を、なんと巨大ミミズの大群が砂を蹴立てて通りすぎていく。
砂煙がもうもうと立ち上がっているため分かりづらいが、ミミズの長さは二百メートル以上はありそうだ。
移動速度はおそらく時速八十キロには達しているだろう。
砂に潜り、また出て進むそのさまは、まさに砂漠の王者に相応しい風格だ。
そしてまた、それに付き従うようにして、全長五メートル級のダンゴ虫や全長十メートル級の羽蟲が砂上を一緒に、大量に移動している。
ちょっとした大軍団だ。
「ワームだよ。怒らせない限りこちらには害を加えてこないから、心配しないで」
リーサが左手でパルフェの手綱を操りながら、右手で竹細工のキーホルダーが付いたヒモをブンブン振り回した。蟲笛だ。
キュルルルルルル！ キュルルルルルル！
甲高い音がする。
「この距離なら砂嵐で聞こえないだろうけど念のためね。この音は蟲の音を模しているから、仲間と思って襲ってこないんだよ」
「便利なもんだな」
「でもこれ、アタッチメントをつけて鳴らすと、逆に蟲を怒らせることもできるんだよ？」
「……何のためにそんなことをする？ 蟲を怒らせていいことでもあるのか？」
「砂漠狼の群れとか、大量の魔物に襲われたときにわざと乱入させることで魔物を追い払うんだよ。自分たちも危険だから、あまり使うことはないけどね」
「へぇ。……ん？」
とそこで、望遠鏡をリーサに返したオレの感覚が、近づきつつある何か生物の存在を感じ取った。
「リーサ、何か来るぞ。構えろ！」
剣を抜いたオレの後ろでリーサも剣を抜く。
リーサの剣は、オレのシルバーファングと同じく直刀の両手剣だが、刀身に何か文字が刻まれている。
羽根を模した鍔と、星を象った意匠がめちゃくちゃカッコいい。
砂漠の砂を割って現れたのは、全長五メートルはありそうな巨大サソリだった。
全部で五匹。皆、尻尾を威嚇の形に空高く持ちあげている。
リーサは間髪入れず、先頭のサソリの懐に飛び込むと、剣で斬りつけた。
「たぁぁぁぁあ！！」
カキャァァァァアアンン！！
尻尾で剣が弾かれる。
続けて身体に斬りつけるも、こちらも殻が硬くて刃を通さない。
サソリは尻尾を高く上げると、赤く鈍く光った毒針を勢いよく振り下ろした。
リーサが何ごとかつぶやきながら身体をコマのように回転させ、毒針をギリギリで避ける。
いつの間にやら剣に刻まれた文字が光り輝き、それに合わせて刀身上を細かな火花が散り始める。
放電現象だ。
「……おいおい、なんなんだそりゃ」
オレは別のサソリの攻撃を剣で受けながら、何が起こっているのかと横目でリーサを観察した。
リーサが毒針攻撃をかわしつつ、帯電した剣でサソリを袈裟斬りにした。
「雷光剣！！」
ズガガガガガガガガァァァァァァァァァァンンンンン！！！！
「……すげぇ」
雷を纏ったリーサの剣がサソリの硬い表皮を易々と切り裂いた。
サソリの殻が連鎖的に爆発しながら、ド派手にはじけ飛ぶ。
雷を付与するだけでこんなに威力が上がるのかとビックリするほどだ。
しかも、剣に雷を纏っている恩恵か、オレのブーストモードほどではないものの、驚くほど動きが素早くなっている。
黒焦げになったサソリを放って次のサソリに斬りかかるリーサを見ながら、オレはひたすら感心していた。
動きが見事すぎて、つい見入ってしまう。
「これが魔法剣ってやつか。いやはやカッコいいな。この程度の相手なら難なく戦えるし、これならオレも安心して背中を預けられそうだ。うーむ、こりゃ負けてらんねぇ。オレもいっちょ、カッコいいのをぶちかましちゃるけんの！！」
オレは剣を無駄にブンブン振り回すと、なんとなくカッコいいポーズで剣を構えた。
「吠えろ、シルバーファング！ 第二の牙、灼熱剣！！」
剣が瞬時に高熱を帯び、まぶしく光り輝く。
オレはアドリブでそれっぽい型を作ると、韋駄天足で高速移動しつつ思いっきり剣先からサソリに体当たりした。
「ソード・インパクトぉぉぉぉ！！」
灼熱剣による高速体当たりは、先頭のサソリを粉々にしただけでなく、後ろにいた何体かをも巻き込んで、バッラバラに吹き飛ばした。
まるでボウリングだ。
ふむ。思いついてやってみただけなんだが、意外とできるもんだ。
スキージャンプの着地のように砂を散らしつつ華麗に着地したオレの背中に、リーサの称賛の声がかかる。
「旦那さま、カッコいい！！」
だろう？ ふっふっふ。そうさ、カッコ良かろうともさ！！
ドヤ顔で振り返ったオレに、いつの間に近くまで寄ってきていたのか、振り上げられたサソリの毒針が迫る。
やべ、つい油断しちまった。
「旦那さまぁぁぁぁあああ！！」
雷を纏いつつ駆けつけたリーサの横薙ぎ一閃で、サソリの身体が真っ二つになる。
うーむ、やっぱり属性付与《エンチャント》した剣はカッコいいな。
「ナイスフォロー、リーサ！ もういっちょ、ソードインパクト！！」
「頑張って、旦那さまぁぁ！！」
衝撃を剣の先端に込めたオレのダッシュ突きが、サソリのがら空きになった腹に見事命中し、サソリは木っ端みじんに弾け飛んだ。
思った以上にいい連携ができている。
「旦那さま！ まだいる！！」
「新手か？」
見ると、砂丘の上から全長十メートルもありそうな巨大蛇がチロチロ舌を出しつつ、オレとリーサを見ている。
次の瞬間、巨大蛇が凄まじい速さで近寄ってきた。
「風の精霊よ、集いて渦巻け！！」
間髪入れず、リーサが左腕に装着していたボウガンを蛇に向け、トリガーを絞った。
ヒュンヒュンヒュンヒュン！ スカカカカァァァァンン！！
発射された矢が風をまとって、蛇の額に綺麗に突き立った。
風の魔法を付与しているおかげでとんでもなく早い上に、連射式なので、面白いように矢が蛇の身体のあちこちに刺さる。
ズズゥゥゥゥゥンン！！
たまらず蛇の巨体がゆっくりと横倒しになった。
確認するまでもなく死んでいる。
やはり額に刺さった矢が致命傷になったようだが、随分と奥まで突き刺さっている。
「便利だなぁ、飛び道具。……なぁ、リーサ。これって、矢に魔法を付与することはできないのか？」
リーサがボウガンに安全装置をかけながら近寄ってくる。
「んー、ボクのコレは、連射装置に火薬じゃなくって風の魔法を使っているタイプなんだ。矢がすでに風の精霊の支配下にあるから、別の精霊を重ねがけすることはできないんだよ、残念だけど」
「そうか。そういうものなのか。いやいいんだ。ちょっとした思いつきだから」
オレは周囲を用心深く確認した。
もう敵の気配はしない。
「んじゃ、行こうぜ、リーサ」
「うん。村まで、あともうひと踏ん張りだよ」
リーサはニコっと笑うと、再びフードを目深にかぶり、颯爽とパルフェにまたがった。
緑色のパルフェ――ずんだに乗って砂漠を疾走していたオレに向かって、同じく黒色のパルフェに乗ってオレの少し前方を走っていたリーサが右手を上げて合図した。
意味は『止まれ、警戒しろ』だ。
砂漠の只中を進むときは、砂よけでフードやゴーグルを目深にかぶるため、こうやって分かりやすい手信号で仲間に状況を知らせるものらしい。
今朝リーサから、簡単な合図を数種類習ったばかりだ。
なるほど、確かに砂嵐の中で意思疎通するのは難しいものな。
手綱を引っぱってずんだの走りを止めたオレは、望遠鏡を目に当てて前方の様子を確認しているリーサの傍にずんだを寄せた。
リーサがオレに自分の望遠鏡を手渡し、アゴをしゃくる。覗いてみろと言いたいのだ。
オレは、砂よけに目深に被っていたフードをズラすと、渡された望遠鏡を覗きこんだ。
「うっは、こりゃ凄ぇ……」
前方、遥か数キロメートル先を、なんと巨大ミミズの大群が砂を蹴立てて通りすぎていく。
砂煙がもうもうと立ち上がっているため分かりづらいが、ミミズの長さは二百メートル以上はありそうだ。
移動速度はおそらく時速八十キロには達しているだろう。
砂に潜り、また出て進むそのさまは、まさに砂漠の王者に相応しい風格だ。
そしてまた、それに付き従うようにして、全長五メートル級のダンゴ虫や全長十メートル級の羽蟲が砂上を一緒に、大量に移動している。
ちょっとした大軍団だ。
「ワームだよ。怒らせない限りこちらには害を加えてこないから、心配しないで」
リーサが左手でパルフェの手綱を操りながら、右手で竹細工のキーホルダーが付いたヒモをブンブン振り回した。蟲笛だ。
キュルルルルルル！ キュルルルルルル！
甲高い音がする。
「この距離なら砂嵐で聞こえないだろうけど念のためね。この音は蟲の音を模しているから、仲間と思って襲ってこないんだよ」
「便利なもんだな」
「でもこれ、アタッチメントをつけて鳴らすと、逆に蟲を怒らせることもできるんだよ？」
「……何のためにそんなことをする？ 蟲を怒らせていいことでもあるのか？」
「砂漠狼の群れとか、大量の魔物に襲われたときにわざと乱入させることで魔物を追い払うんだよ。自分たちも危険だから、あまり使うことはないけどね」
「へぇ。……ん？」
とそこで、望遠鏡をリーサに返したオレの感覚が、近づきつつある何か生物の存在を感じ取った。
「リーサ、何か来るぞ。構えろ！」
剣を抜いたオレの後ろでリーサも剣を抜く。
リーサの剣は、オレのシルバーファングと同じく直刀の両手剣だが、刀身に何か文字が刻まれている。
羽根を模した鍔と、星を象った意匠がめちゃくちゃカッコいい。
砂漠の砂を割って現れたのは、全長五メートルはありそうな巨大サソリだった。
全部で五匹。皆、尻尾を威嚇の形に空高く持ちあげている。
リーサは間髪入れず、先頭のサソリの懐に飛び込むと、剣で斬りつけた。
「たぁぁぁぁあ！！」
カキャァァァァアアンン！！
尻尾で剣が弾かれる。
続けて身体に斬りつけるも、こちらも殻が硬くて刃を通さない。
サソリは尻尾を高く上げると、赤く鈍く光った毒針を勢いよく振り下ろした。
リーサが何ごとかつぶやきながら身体をコマのように回転させ、毒針をギリギリで避ける。
いつの間にやら剣に刻まれた文字が光り輝き、それに合わせて刀身上を細かな火花が散り始める。
放電現象だ。
「……おいおい、なんなんだそりゃ」
オレは別のサソリの攻撃を剣で受けながら、何が起こっているのかと横目でリーサを観察した。
リーサが毒針攻撃をかわしつつ、帯電した剣でサソリを袈裟斬りにした。
「雷光剣！！」
ズガガガガガガガガァァァァァァァァァァンンンンン！！！！
「……すげぇ」
雷を纏ったリーサの剣がサソリの硬い表皮を易々と切り裂いた。
サソリの殻が連鎖的に爆発しながら、ド派手にはじけ飛ぶ。
雷を付与するだけでこんなに威力が上がるのかとビックリするほどだ。
しかも、剣に雷を纏っている恩恵か、オレのブーストモードほどではないものの、驚くほど動きが素早くなっている。
黒焦げになったサソリを放って次のサソリに斬りかかるリーサを見ながら、オレはひたすら感心していた。
動きが見事すぎて、つい見入ってしまう。
「これが魔法剣ってやつか。いやはやカッコいいな。この程度の相手なら難なく戦えるし、これならオレも安心して背中を預けられそうだ。うーむ、こりゃ負けてらんねぇ。オレもいっちょ、カッコいいのをぶちかましちゃるけんの！！」
オレは剣を無駄にブンブン振り回すと、なんとなくカッコいいポーズで剣を構えた。
「吠えろ、シルバーファング！ 第二の牙、灼熱剣！！」
剣が瞬時に高熱を帯び、まぶしく光り輝く。
オレはアドリブでそれっぽい型を作ると、韋駄天足で高速移動しつつ思いっきり剣先からサソリに体当たりした。
「ソード・インパクトぉぉぉぉ！！」
灼熱剣による高速体当たりは、先頭のサソリを粉々にしただけでなく、後ろにいた何体かをも巻き込んで、バッラバラに吹き飛ばした。
まるでボウリングだ。
ふむ。思いついてやってみただけなんだが、意外とできるもんだ。
スキージャンプの着地のように砂を散らしつつ華麗に着地したオレの背中に、リーサの称賛の声がかかる。
「旦那さま、カッコいい！！」
だろう？ ふっふっふ。そうさ、カッコ良かろうともさ！！
ドヤ顔で振り返ったオレに、いつの間に近くまで寄ってきていたのか、振り上げられたサソリの毒針が迫る。
やべ、つい油断しちまった。
「旦那さまぁぁぁぁあああ！！」
雷を纏いつつ駆けつけたリーサの横薙ぎ一閃で、サソリの身体が真っ二つになる。
うーむ、やっぱり属性付与《エンチャント》した剣はカッコいいな。
「ナイスフォロー、リーサ！ もういっちょ、ソードインパクト！！」
「頑張って、旦那さまぁぁ！！」
衝撃を剣の先端に込めたオレのダッシュ突きが、サソリのがら空きになった腹に見事命中し、サソリは木っ端みじんに弾け飛んだ。
思った以上にいい連携ができている。
「旦那さま！ まだいる！！」
「新手か？」
見ると、砂丘の上から全長十メートルもありそうな巨大蛇がチロチロ舌を出しつつ、オレとリーサを見ている。
次の瞬間、巨大蛇が凄まじい速さで近寄ってきた。
「風の精霊よ、集いて渦巻け！！」
間髪入れず、リーサが左腕に装着していたボウガンを蛇に向け、トリガーを絞った。
ヒュンヒュンヒュンヒュン！ スカカカカァァァァンン！！
発射された矢が風をまとって、蛇の額に綺麗に突き立った。
風の魔法を付与しているおかげでとんでもなく早い上に、連射式なので、面白いように矢が蛇の身体のあちこちに刺さる。
ズズゥゥゥゥゥンン！！
たまらず蛇の巨体がゆっくりと横倒しになった。
確認するまでもなく死んでいる。
やはり額に刺さった矢が致命傷になったようだが、随分と奥まで突き刺さっている。
「便利だなぁ、飛び道具。……なぁ、リーサ。これって、矢に魔法を付与することはできないのか？」
リーサがボウガンに安全装置をかけながら近寄ってくる。
「んー、ボクのコレは、連射装置に火薬じゃなくって風の魔法を使っているタイプなんだ。矢がすでに風の精霊の支配下にあるから、別の精霊を重ねがけすることはできないんだよ、残念だけど」
「そうか。そういうものなのか。いやいいんだ。ちょっとした思いつきだから」
オレは周囲を用心深く確認した。
もう敵の気配はしない。
「んじゃ、行こうぜ、リーサ」
「うん。村まで、あともうひと踏ん張りだよ」
リーサはニコっと笑うと、再びフードを目深にかぶり、颯爽とパルフェにまたがった。
