けむり

 ――きっと、わたしの匂いなんて憶えていないんだろうな。

 そう心の内に押し込めて今日も、たばこを咥える。

 先端に火を付けて煙を吐く。
 彼と吸っているものと同じ味と匂い。
 それを纏いすぐに彼と同じ匂いになる。
 この匂いは好きだけど同時に妬ましくも思う。

 いつも彼と一緒にいるのは煙なんだろう。
 いつも彼の隣はわたしじゃないんだろう。

 なんて思ってたりしてる。
 だって二番目なんて嫌だから。

 彼から一番に優先される存在になりたい。
 同じ匂いになっても気付かれないかもしない。
 だけど、わたしも彼のそばに居たいと思ってる。
 なのに彼の一番近くにいるものに頼ってしまってる。

 二人でベランダにいる時はわたしを見て話してくれる。
 この時間がずっと続けばいいのに、私だけを見ててほしい。
 そう思うけど、彼は吸い終わると部屋の中に戻って行ってしまう。
 彼はわたしを、たばこ休憩中の暇電相手くらいの認識なんだろう。
 もう彼の一番にはなれないのかもしれない、そうわたしは感じていた。

 この時間の終わりを知らせるように短くなっていく。
 最後の一本を吸い終えて、わたしは灯を消した。