──どうやって家に帰ったのか、正直覚えていない。
「……“鈴の恩人さん”」
北条椿にそう呼ばれた瞬間、
美羽の頭の中で、いくつものピースが一気に繋がった。
(そうだ……鈴ちゃん。あの時助けた中学生の……)
(ってことは……北条椿って……鈴ちゃんのお兄さんだったの!?)
そして、心臓が跳ねた。
(あの黒薔薇の王が……鈴ちゃんの兄!?)
あの夜の出来事、青龍チームの顔、鈴の涙、
そして、あの“王のような”男の冷たい瞳。
──すべてが、一本の線で繋がった気がした。
「うそでしょ……そんな偶然ある!?」
布団の中で叫ぶ。
夜中の2時。
(……いや、もう偶然じゃないよね!?)
(ってか……私、なんであの時カッコつけて助けちゃったの!?)
枕を抱きしめ、ジタバタ。
「もういやぁぁぁ!!」
──明日、どんな顔して学校行けばいいのよっ!!
翌朝。
「はぁぁぁ……」
ため息をつきながら、校門前に立つ美羽。
空はやけに青くて、妙に晴れ渡っていた。
(……こんな日に限って……)
「落ち着け、私。普通にしてればバレない、たぶん」
(いやもう完全にバレてるよね!? “恩人さん”って言われたし!?)
頭の中で葛藤しているうちに、
後ろから勢いよく走ってきた小学生にぶつかって、
「わわっ!」
見事に転倒した。
「いたたた……」
(ついてなさすぎでしょ、今日……!)
すると、背後から落ち着いた声がした。
「君、大丈夫?」
振り返ると、そこにはまたもやイケメン。
少し髪の長い、切れ長の目をした上品な男の子が立っていた。
どこか、王子様というより貴族っぽい。
「可哀想に……大丈夫かい?」
その手が、優しく差し伸べられる。
「え、あ、はいっ! 大丈夫です……!」
(え、なにこの人……柔らかい声……)
頬がほんのり熱くなっていく。
差し出された手に触れた瞬間、
(わっ……手、あったかい……)
ハッと我に返る。
(だ、ダメダメ! イケメンに惑わされないって決めたのに!)
男の子は微笑んで、
「これ、使って。汚れ、拭いたほうがいいよ?」
と、ハンカチを差し出した。
白地に銀の刺繍。上品すぎる。
「えっ……ありがとうございます。これ、洗って返しますね!」
「ううん、お礼はいらないよ。……でも、代わりに一つだけお願いしてもいいかな?」
「え?」
男の子の瞳がキランと光った。
「ちょっと、着いてきてほしいところがあるんだ♪」
(……え? いやいや、なに? この展開……!?)
――数分後。
学園の廊下を歩かされていた美羽は、
頭の中が「???」でいっぱいだった。
(どこ行くの? てか、誰この人?)
男子は相変わらず穏やかな笑顔。
でも、なぜか廊下を歩くたびに女子たちが振り向く。
(うわ……絶対有名人じゃん、この人……!)
階段を上がり、三階へ。
職員室の向かい側にある、大きな木の扉の前で止まった。
「ここだよ。」
「えっと……ここは?」
男の子はにっこり笑って、
「まぁ、いいから入って。……"雨宮 美羽さん?"」
「えっ……!?」
名前を知っていることに、美羽は息をのむ。
(え、なんで知ってるの!?)
中に入った瞬間、
重たい音を立てて扉が閉まり、カチリと鍵がかかった。
「ちょ、ちょっと!? なにこれ!? 閉めないでよっ!」
(は、はめられたぁぁぁぁ!!)
部屋の奥。
長いテーブルの中央に座っていたのは——
北条椿。
黒い制服の上着をゆるく羽織り、
脚を組んだ姿が絵画みたいに整っている。
椿が目を細め、ゆっくりと微笑んだ。
「いや、まさか男にほいほい着いてくるとはな。
ちょっと抜けてるんじゃないか? 美羽?」
「っ……!」
(ちょ、ちょっとこの人、言い方ムカつくんですけど!?てかさりげなく呼び捨てかい!)
でもその低い声と目線があまりに色っぽくて、
なぜか心臓が早く打ってしまう。
(なにこれ……緊張する……)
椿は、先ほどの男子に視線を向けた。
「遼。ご苦労だった。」
「ぜんぜ〜ん。可愛い子は任せて?」
チャラい声とともに、美羽を連れてきた男が笑う。
「年上じゃないのが残念だけどね〜?」
「は?」
美羽は、眉をひそめる。
「もしかして、あなたも……?」
遼はウインクしながら手を差し出した。
「そうだよ? 俺も黒薔薇チーム。神崎 遼(カンザキ リョウ)。
年上キラーで有名なんだ〜。よろしくね、文武両道の雨宮 美羽ちゃん?」
「……」
(またこのパターン!?)
冷たい目を向ける美羽。
(もう、なんでこう次から次へとイケメン出てくるの!?
しかもみんな性格に難あり!!)
遼は肩をすくめた。
「あは、照れてるの? 可愛いね〜」
「照れてませんっ!」
椿が椅子を引いて立ち上がった。
その仕草一つで、空気がピリッと引き締まる。
「青龍の下っ端と戦っていたのは、美羽、お前だな?」
「……は?」
「惚けるな。」
椿の低い声が響く。
(ひぃっ……威圧感やば……)
美羽は引きつりながらも言い返した。
「ちょっと、馴れ馴れしいんですけど? 名字で呼んでもらえません?」
「質問に答えろ。」
ぴしゃり。
その言葉に背筋が伸びる。
(なにこの人……王様か何かですか!?)
もう勝てないと悟った美羽は、観念して口を開いた。
「……“青龍”の人たちかどうかはわからないけど。
公園で絡まれていた“鈴ちゃん”って子を助けたのは、私、です。」
静寂。
椿の瞳がわずかに細まる。
「……やはり、そうか。」
その声音は、冷たくもどこか安堵を滲ませていた。
その時だった。
ドアがもう一度開き、メガネをかけた青年が入ってきた。
手にはノートパソコン。
無駄のない動き。
「椿、データ出たぞ。」
藤堂玲央(フジサキ レオ)——黒薔薇チームの頭脳。
天才ハッカー。
「雨宮美羽。◯◯県出身。幼少期から文武両道の父親に育てられ、3歳の頃から空手を始める。階級は三段。大会では多数の優勝歴あり。母親は専業主婦。父親の単身赴任を機に、黒薔薇学園へ転入。だが、中学三年の時に空手を突如引退——。ちなみに、空手を辞めた理由は——」
「ちょ、ちょっと待ったあぁぁぁぁ!!」
玲央の口を、思い切り手で塞いだ。
「むぐっ!?」
「言わないでえええ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ美羽。
玲央は目を見開きながらも苦しそうに言葉を漏らした。
「ぐっ……つ、強い……データ以上だ……!」
「何がデータ以上よ!勝手に人のことしらべて!!」
その場にいた全員が固まる。
そして、北条椿がニヤリと笑った。
「……何か、話されたくない過去でもあるのか?」
「んなっ……なにもないですっ!!」
「ふぅん?」
(な、なんなのこの人! 人の黒歴史をえぐる天才!?)
「と、とにかく認めますから!!」
美羽は慌てて玲央の手を離した。
玲央は咳をしながらも、「殺されるかと思った……」と呟いた。
椿はゆっくりと立ち上がり、美羽に歩み寄る。
「なんで、強いのを隠してる?」
「あなたに関係ありません!」
「へぇ……俺に逆らうのか?」
低く、挑発的な声。
その瞬間、椿の手が美羽の腕を掴んだ。
ぐっと引き寄せられる。
腕から伝わる体温と力。
(ま、待って……この人、強い!? 振りほどけない……!?)
距離が近い。
椿の瞳に映る自分が、やけに小さく見えた。
椿は微笑み、そっと手を離す。
「ま、鈴のお礼もしたかったしな。ありがとう、美羽。今回は感謝する。」
その声がやけに柔らかく響いて、
美羽の胸が一瞬、痛くなる。
碧がすかさず、「うわ、椿くんが“ありがとう”っ言いましたよ! レアですね〜!」と茶化した。
美羽は顔を真っ赤にして俯いた。
(なんで……この人にだけ、弱くなるんだろう)
だが、その優しさは一瞬だった。
椿は再び目を細め、鋭く告げる。
「——でだ、お前の正体を隠す代わりに、これからは黒薔薇生徒会に入ってもらう。これは命令だ。」
「はぁ!? いやです! 絶対入りません!!」
「バラしてもいいのか?」
「ぐっ!そ、それは脅しじゃないですか!」
「そうだ。俺は“黒薔薇の王”だからな?」
(こいつ、自覚あるタイプの傲慢だっ!!)
「私は関わりたくないんです!」
「だったら——もう鈴に会うな。」
「……っ!!」
心臓が痛んだ。
鈴の笑顔が頭に浮かぶ。
「そ、それは……卑怯ですっ!」
椿は唇の端を上げる。
「交渉ってのは、そういうもんだ。」
(くっ……この人、本当に嫌い!!)
そう思いながらも、
どこか胸の奥で小さな声が囁いていた。
——ほんとうに、嫌い?
「……わかりました。入ります。生徒会。」
美羽の負けだった。
「ふっ。最初からそう言えばいい。」
椿は満足そうに笑った。
その笑顔は、
“黒薔薇の王”の微笑み。
だが、美羽はその時まだ知らなかった。
この“取引”が、
やがて恋と運命を絡めとる始まりになることを——。
「……“鈴の恩人さん”」
北条椿にそう呼ばれた瞬間、
美羽の頭の中で、いくつものピースが一気に繋がった。
(そうだ……鈴ちゃん。あの時助けた中学生の……)
(ってことは……北条椿って……鈴ちゃんのお兄さんだったの!?)
そして、心臓が跳ねた。
(あの黒薔薇の王が……鈴ちゃんの兄!?)
あの夜の出来事、青龍チームの顔、鈴の涙、
そして、あの“王のような”男の冷たい瞳。
──すべてが、一本の線で繋がった気がした。
「うそでしょ……そんな偶然ある!?」
布団の中で叫ぶ。
夜中の2時。
(……いや、もう偶然じゃないよね!?)
(ってか……私、なんであの時カッコつけて助けちゃったの!?)
枕を抱きしめ、ジタバタ。
「もういやぁぁぁ!!」
──明日、どんな顔して学校行けばいいのよっ!!
翌朝。
「はぁぁぁ……」
ため息をつきながら、校門前に立つ美羽。
空はやけに青くて、妙に晴れ渡っていた。
(……こんな日に限って……)
「落ち着け、私。普通にしてればバレない、たぶん」
(いやもう完全にバレてるよね!? “恩人さん”って言われたし!?)
頭の中で葛藤しているうちに、
後ろから勢いよく走ってきた小学生にぶつかって、
「わわっ!」
見事に転倒した。
「いたたた……」
(ついてなさすぎでしょ、今日……!)
すると、背後から落ち着いた声がした。
「君、大丈夫?」
振り返ると、そこにはまたもやイケメン。
少し髪の長い、切れ長の目をした上品な男の子が立っていた。
どこか、王子様というより貴族っぽい。
「可哀想に……大丈夫かい?」
その手が、優しく差し伸べられる。
「え、あ、はいっ! 大丈夫です……!」
(え、なにこの人……柔らかい声……)
頬がほんのり熱くなっていく。
差し出された手に触れた瞬間、
(わっ……手、あったかい……)
ハッと我に返る。
(だ、ダメダメ! イケメンに惑わされないって決めたのに!)
男の子は微笑んで、
「これ、使って。汚れ、拭いたほうがいいよ?」
と、ハンカチを差し出した。
白地に銀の刺繍。上品すぎる。
「えっ……ありがとうございます。これ、洗って返しますね!」
「ううん、お礼はいらないよ。……でも、代わりに一つだけお願いしてもいいかな?」
「え?」
男の子の瞳がキランと光った。
「ちょっと、着いてきてほしいところがあるんだ♪」
(……え? いやいや、なに? この展開……!?)
――数分後。
学園の廊下を歩かされていた美羽は、
頭の中が「???」でいっぱいだった。
(どこ行くの? てか、誰この人?)
男子は相変わらず穏やかな笑顔。
でも、なぜか廊下を歩くたびに女子たちが振り向く。
(うわ……絶対有名人じゃん、この人……!)
階段を上がり、三階へ。
職員室の向かい側にある、大きな木の扉の前で止まった。
「ここだよ。」
「えっと……ここは?」
男の子はにっこり笑って、
「まぁ、いいから入って。……"雨宮 美羽さん?"」
「えっ……!?」
名前を知っていることに、美羽は息をのむ。
(え、なんで知ってるの!?)
中に入った瞬間、
重たい音を立てて扉が閉まり、カチリと鍵がかかった。
「ちょ、ちょっと!? なにこれ!? 閉めないでよっ!」
(は、はめられたぁぁぁぁ!!)
部屋の奥。
長いテーブルの中央に座っていたのは——
北条椿。
黒い制服の上着をゆるく羽織り、
脚を組んだ姿が絵画みたいに整っている。
椿が目を細め、ゆっくりと微笑んだ。
「いや、まさか男にほいほい着いてくるとはな。
ちょっと抜けてるんじゃないか? 美羽?」
「っ……!」
(ちょ、ちょっとこの人、言い方ムカつくんですけど!?てかさりげなく呼び捨てかい!)
でもその低い声と目線があまりに色っぽくて、
なぜか心臓が早く打ってしまう。
(なにこれ……緊張する……)
椿は、先ほどの男子に視線を向けた。
「遼。ご苦労だった。」
「ぜんぜ〜ん。可愛い子は任せて?」
チャラい声とともに、美羽を連れてきた男が笑う。
「年上じゃないのが残念だけどね〜?」
「は?」
美羽は、眉をひそめる。
「もしかして、あなたも……?」
遼はウインクしながら手を差し出した。
「そうだよ? 俺も黒薔薇チーム。神崎 遼(カンザキ リョウ)。
年上キラーで有名なんだ〜。よろしくね、文武両道の雨宮 美羽ちゃん?」
「……」
(またこのパターン!?)
冷たい目を向ける美羽。
(もう、なんでこう次から次へとイケメン出てくるの!?
しかもみんな性格に難あり!!)
遼は肩をすくめた。
「あは、照れてるの? 可愛いね〜」
「照れてませんっ!」
椿が椅子を引いて立ち上がった。
その仕草一つで、空気がピリッと引き締まる。
「青龍の下っ端と戦っていたのは、美羽、お前だな?」
「……は?」
「惚けるな。」
椿の低い声が響く。
(ひぃっ……威圧感やば……)
美羽は引きつりながらも言い返した。
「ちょっと、馴れ馴れしいんですけど? 名字で呼んでもらえません?」
「質問に答えろ。」
ぴしゃり。
その言葉に背筋が伸びる。
(なにこの人……王様か何かですか!?)
もう勝てないと悟った美羽は、観念して口を開いた。
「……“青龍”の人たちかどうかはわからないけど。
公園で絡まれていた“鈴ちゃん”って子を助けたのは、私、です。」
静寂。
椿の瞳がわずかに細まる。
「……やはり、そうか。」
その声音は、冷たくもどこか安堵を滲ませていた。
その時だった。
ドアがもう一度開き、メガネをかけた青年が入ってきた。
手にはノートパソコン。
無駄のない動き。
「椿、データ出たぞ。」
藤堂玲央(フジサキ レオ)——黒薔薇チームの頭脳。
天才ハッカー。
「雨宮美羽。◯◯県出身。幼少期から文武両道の父親に育てられ、3歳の頃から空手を始める。階級は三段。大会では多数の優勝歴あり。母親は専業主婦。父親の単身赴任を機に、黒薔薇学園へ転入。だが、中学三年の時に空手を突如引退——。ちなみに、空手を辞めた理由は——」
「ちょ、ちょっと待ったあぁぁぁぁ!!」
玲央の口を、思い切り手で塞いだ。
「むぐっ!?」
「言わないでえええ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ美羽。
玲央は目を見開きながらも苦しそうに言葉を漏らした。
「ぐっ……つ、強い……データ以上だ……!」
「何がデータ以上よ!勝手に人のことしらべて!!」
その場にいた全員が固まる。
そして、北条椿がニヤリと笑った。
「……何か、話されたくない過去でもあるのか?」
「んなっ……なにもないですっ!!」
「ふぅん?」
(な、なんなのこの人! 人の黒歴史をえぐる天才!?)
「と、とにかく認めますから!!」
美羽は慌てて玲央の手を離した。
玲央は咳をしながらも、「殺されるかと思った……」と呟いた。
椿はゆっくりと立ち上がり、美羽に歩み寄る。
「なんで、強いのを隠してる?」
「あなたに関係ありません!」
「へぇ……俺に逆らうのか?」
低く、挑発的な声。
その瞬間、椿の手が美羽の腕を掴んだ。
ぐっと引き寄せられる。
腕から伝わる体温と力。
(ま、待って……この人、強い!? 振りほどけない……!?)
距離が近い。
椿の瞳に映る自分が、やけに小さく見えた。
椿は微笑み、そっと手を離す。
「ま、鈴のお礼もしたかったしな。ありがとう、美羽。今回は感謝する。」
その声がやけに柔らかく響いて、
美羽の胸が一瞬、痛くなる。
碧がすかさず、「うわ、椿くんが“ありがとう”っ言いましたよ! レアですね〜!」と茶化した。
美羽は顔を真っ赤にして俯いた。
(なんで……この人にだけ、弱くなるんだろう)
だが、その優しさは一瞬だった。
椿は再び目を細め、鋭く告げる。
「——でだ、お前の正体を隠す代わりに、これからは黒薔薇生徒会に入ってもらう。これは命令だ。」
「はぁ!? いやです! 絶対入りません!!」
「バラしてもいいのか?」
「ぐっ!そ、それは脅しじゃないですか!」
「そうだ。俺は“黒薔薇の王”だからな?」
(こいつ、自覚あるタイプの傲慢だっ!!)
「私は関わりたくないんです!」
「だったら——もう鈴に会うな。」
「……っ!!」
心臓が痛んだ。
鈴の笑顔が頭に浮かぶ。
「そ、それは……卑怯ですっ!」
椿は唇の端を上げる。
「交渉ってのは、そういうもんだ。」
(くっ……この人、本当に嫌い!!)
そう思いながらも、
どこか胸の奥で小さな声が囁いていた。
——ほんとうに、嫌い?
「……わかりました。入ります。生徒会。」
美羽の負けだった。
「ふっ。最初からそう言えばいい。」
椿は満足そうに笑った。
その笑顔は、
“黒薔薇の王”の微笑み。
だが、美羽はその時まだ知らなかった。
この“取引”が、
やがて恋と運命を絡めとる始まりになることを——。



