白百合チーム壊滅の騒動から数週間。
黒薔薇学園では、ある名が静かにゆっくりと広まっていった。

——戦場を女ひとりで駆け抜け、羽の様に舞い、
風のように敵を薙ぎ払った彼女。
——その拳は刃より鋭く、その瞳は炎より強い。

いつしか人々は彼女をこう呼び始める。

“黒薔薇の戦血姫”——雨宮 美羽。

黒薔薇の名に新たに刻まれた、伝説の称号。

「なあ聞いたか? 白百合を一晩で潰したらしいぞ。」
「しかも…たったひとりで、だってよ。」
「黒薔薇の王が唯一溺愛する姫だって話……本当なのかな。」
「そりゃそうだろ、あの椿が守ってるくらいだ。よほど大事なんだよ。」

廊下のざわめきが、次々と彼女の名を運ぶ。

当の美羽はというと、
肩まで流れる髪を揺らしながら、ふわりと笑って否定していた。

「戦血姫なんて呼ばれるの、恥ずかしいんだけど……!」

しかし隣を歩く椿は、どこか誇らしげに目を細める。

「いや、似合ってるだろ?俺の女にぴったりだ。」

「な……なにそれ!?」

「事実だろ。美羽は俺の誇りで、自慢のお姫様だからな?」

そっと繋がれた手の温もりに、美羽の胸はくすぐったくなる。

こうして黒薔薇学園には、新たな伝説が刻まれた。
最強の王・北条椿が唯一想いを捧げるたったひとりの姫——
“黒薔薇の戦血姫”。

その名は、今日も静かに、そして確かに学園中へ広がっていくのだった。













Fin.