黒薔薇メンバーが道場から出ていき、扉が閉まった瞬間、
空気がいっきに静まり返った。
夕暮れの光が畳を金色に照らす。
美羽と椿だけがそこに残されていた。
鼓動がまだ収まらない。
試合の余韻と、負けた悔しさと……胸の奥の熱。
「……初めて、負けちゃった……」
美羽が小さく呟くと、椿はゆっくりと歩み寄ってきた。
「負けたな。……すげぇ可愛かったけど?」
「なっ……可愛くなんて……っ」
焦って視線を逸らした瞬間だった。
椿の指が美羽の顎をそっと持ち上げる。
「美羽、」
「え、ちょ、ま、待っ……」
振り向いたその一瞬の隙をついて、
椿は迷いなく美羽の唇を奪った。
やさしく、だけどしっかりとした、
覚悟を伝えるようなキス。
「……っ!?……ん……」
突然すぎて頭が真っ白になる。
でも、逃げようとしても、椿の手が後頭部をそっと支えて離してくれなかった。
夕日の中、畳に二人の影が重なる。
唇が離れたころ、美羽は完全に固まっていた。
「……ッ……な、なに……するの……
心の準備とか……あったでしょ……っ……!」
声が震える美羽に、椿は少し悪そうな顔で微笑んだ。
「隙だらけだったから。……我慢できなかった。」
「っ……!」
「それに、美羽が可愛すぎるのが悪い。」
「わ、悪くないし!わたし悪くないしっ!!」
椿は笑って、そっと美羽の頬を撫でた。
顔が勝手に熱くなる。
椿はその反応が可愛くて仕方ないというように、口元をゆるめた。
「泣きそうな顔、してる。」
「してないっ」
「してる。」
つん、と額を指で押され、美羽はぷいっと横を向く。
すると椿は、耳のすぐ後ろにそっと顔を寄せた。
「強かったよ、美羽。……本気で惚れ直した。」
「っ……!」
息が触れた瞬間、膝が少し笑う。
自分でも驚くほど身体が反応してしまう。
「泣くほど頑張って、泣くほど好きで……
そんな美羽を、これからは、俺が守る。」
夕陽が差し込み、椿の目が淡い琥珀色に輝いて見えた。
「美羽、好きだ。」
「……っ、椿くんのほうが、ずるい……」
「どのへんが?」
「全部っ……!」
そんな言い合いをして、また自然と笑い合った。
*
しばらく肩を寄せて座り、落ち着いたところで
美羽は急に思い出したように椿を見た。
「あ、ところでさ。ひとつ聞きたいことがあったんだけど…!」
「ん?」
「椿くんって……空手、やってたんだよね?
かなり手慣れてたと思ったんだけど、
階級、いくつなの?」
美羽の問いに、椿は少しだけ意地悪く目を細めた。
そして、美羽の耳元に唇を寄せ――
「……五段」
「…………え?」
「まぁ…ここ最近の話だけどな?
だから、玲央も知らない。」
数秒後。
「はぁぁぁぁあああああ!?!?」
道場全体に美羽の絶叫がこだました。
「ご、ごご、ごご五段!? なんで言ってくれなかったの!?
ちょっと!無理だよ!そんなのはなから勝てるわけないじゃん!!」
取り乱す美羽に、椿は肩を震わせて笑う。
「言ったら手加減しそうだったからな。俺と勝負するときは、本気で来ねぇとな。」
「いやでも五段!?五段って何!?高校生で五段って聞いたことないんだけど!?
もう!椿くんずるいっ!!」
「美羽、落ち着け。」
「落ち着けないっ!!」
椿は笑いながら、美羽の頭をくしゃっと撫でた。
「でも、そんな美羽が俺は好きだ。
勝てないと思いながらも、本気で向かってきたその姿が。」
「……っ……もう、知らない……」
美羽がふてくされて背を向けると、
椿はその背中にそっと腕を回して抱きしめた。
「可愛い。やっぱお前、最高だわ。」
「……っ、椿くんの!ばか……!!」
抱きしめられたまま、夕暮れの道場はゆっくりと夜に沈む。
畳に映るふたりの影は、もう離れることなく寄り添っていた。
空気がいっきに静まり返った。
夕暮れの光が畳を金色に照らす。
美羽と椿だけがそこに残されていた。
鼓動がまだ収まらない。
試合の余韻と、負けた悔しさと……胸の奥の熱。
「……初めて、負けちゃった……」
美羽が小さく呟くと、椿はゆっくりと歩み寄ってきた。
「負けたな。……すげぇ可愛かったけど?」
「なっ……可愛くなんて……っ」
焦って視線を逸らした瞬間だった。
椿の指が美羽の顎をそっと持ち上げる。
「美羽、」
「え、ちょ、ま、待っ……」
振り向いたその一瞬の隙をついて、
椿は迷いなく美羽の唇を奪った。
やさしく、だけどしっかりとした、
覚悟を伝えるようなキス。
「……っ!?……ん……」
突然すぎて頭が真っ白になる。
でも、逃げようとしても、椿の手が後頭部をそっと支えて離してくれなかった。
夕日の中、畳に二人の影が重なる。
唇が離れたころ、美羽は完全に固まっていた。
「……ッ……な、なに……するの……
心の準備とか……あったでしょ……っ……!」
声が震える美羽に、椿は少し悪そうな顔で微笑んだ。
「隙だらけだったから。……我慢できなかった。」
「っ……!」
「それに、美羽が可愛すぎるのが悪い。」
「わ、悪くないし!わたし悪くないしっ!!」
椿は笑って、そっと美羽の頬を撫でた。
顔が勝手に熱くなる。
椿はその反応が可愛くて仕方ないというように、口元をゆるめた。
「泣きそうな顔、してる。」
「してないっ」
「してる。」
つん、と額を指で押され、美羽はぷいっと横を向く。
すると椿は、耳のすぐ後ろにそっと顔を寄せた。
「強かったよ、美羽。……本気で惚れ直した。」
「っ……!」
息が触れた瞬間、膝が少し笑う。
自分でも驚くほど身体が反応してしまう。
「泣くほど頑張って、泣くほど好きで……
そんな美羽を、これからは、俺が守る。」
夕陽が差し込み、椿の目が淡い琥珀色に輝いて見えた。
「美羽、好きだ。」
「……っ、椿くんのほうが、ずるい……」
「どのへんが?」
「全部っ……!」
そんな言い合いをして、また自然と笑い合った。
*
しばらく肩を寄せて座り、落ち着いたところで
美羽は急に思い出したように椿を見た。
「あ、ところでさ。ひとつ聞きたいことがあったんだけど…!」
「ん?」
「椿くんって……空手、やってたんだよね?
かなり手慣れてたと思ったんだけど、
階級、いくつなの?」
美羽の問いに、椿は少しだけ意地悪く目を細めた。
そして、美羽の耳元に唇を寄せ――
「……五段」
「…………え?」
「まぁ…ここ最近の話だけどな?
だから、玲央も知らない。」
数秒後。
「はぁぁぁぁあああああ!?!?」
道場全体に美羽の絶叫がこだました。
「ご、ごご、ごご五段!? なんで言ってくれなかったの!?
ちょっと!無理だよ!そんなのはなから勝てるわけないじゃん!!」
取り乱す美羽に、椿は肩を震わせて笑う。
「言ったら手加減しそうだったからな。俺と勝負するときは、本気で来ねぇとな。」
「いやでも五段!?五段って何!?高校生で五段って聞いたことないんだけど!?
もう!椿くんずるいっ!!」
「美羽、落ち着け。」
「落ち着けないっ!!」
椿は笑いながら、美羽の頭をくしゃっと撫でた。
「でも、そんな美羽が俺は好きだ。
勝てないと思いながらも、本気で向かってきたその姿が。」
「……っ……もう、知らない……」
美羽がふてくされて背を向けると、
椿はその背中にそっと腕を回して抱きしめた。
「可愛い。やっぱお前、最高だわ。」
「……っ、椿くんの!ばか……!!」
抱きしめられたまま、夕暮れの道場はゆっくりと夜に沈む。
畳に映るふたりの影は、もう離れることなく寄り添っていた。



