朝の登校道。
光の粒を巻き上げるように、銀杏の葉が空中で回転して落ちていく。
美羽は、ため息をひとつ。
(はぁ……今日から“護衛生活”ってやつが始まるんだよね……)
昨日の生徒会での話し合いの結果、
黒い手紙への対策として、黒薔薇のメンバーが交代で美羽に付き添うことになった。
そして――最初の担当は遼。
(よりによって遼くんって……
あの人、敵ではないけど……味方にしても騒動を生むタイプでしょ!?)
そんな予感は、登校初日から見事に的中する。
*
「えぇーーーっ!?
美羽、あの年上キラーの遼くんが、今日のボディーガードなの!?」
朝からテンションMAXの莉子が、大きな目をキラキラ輝かせる。
「逆ハーレムじゃん!
むしろ羨ましすぎて私が呪われたいんだけど?」
「いやいやいやいや、そんな状況じゃないから!!」
美羽が必死に否定していると――
廊下の向こうで、黄色い叫び声があがった。
「遼くん!?
私たち年上にしか興味ないって言ってたじゃん!!」
「そーよそーよ!
ねぇ、どういうこと!? 彼女できたの!?」
「なんで急に一年の子と一緒なのよー!!」
2年、3年の女子たちが一斉に遼を囲い込み、修羅場の渦を巻き起こしている。
遼はというと――
にっこりと爽やかすぎる笑顔のまま、女子の波に飲み込まれていた。
「だからさぁ、誤解だってば。
咲良先輩も、流華先輩も、夏音先輩も、
俺が好きなのは君たち“だけ”だよ〜?」
「キャーー!遼くん!!」
「やだぁ~!!!」
「ちょっと!手を繋いでいいのは私だけって言ったじゃん!!」
女子たちの怒号と悲鳴が混ざり、廊下はもはやカオス。
美羽は顔に手を当てて嘆いた。
「……ほら。
これ、かえって拗れてるでしょ……?」
莉子は目をキラキラさせながら美羽の肩を揺らす。
「でも美羽、
とりあえず困ったら私にも言ってね?
なんでも協力するから!!」
「莉子……ありがとう……」
(ほんとに、私の周りだけ毎日ドラマみたいに忙しい……)
そんなことを考えながら、
遼を取り巻く女子の嵐を横目に教室へ向かった。
*
放課後。
夕焼けが校舎の窓をオレンジ色に染めていく。
遼は、どこか優雅な雰囲気で美羽を迎えに来た。
「やぁ、美羽ちゃん。
今日はお疲れさま。女子に囲まれちゃってごめんねぇ?」
「いや、遼くんは悪くないけど……
ちょっと派手すぎるでしょ、あの光景。」
「俺が派手なんじゃなくて、
俺を好きになっちゃう先輩方が魅力的すぎるんだよ?」
「はいはい……」
遼は軽く笑いながら、美羽の歩調に合わせて歩く。
今日の帰り道は夕暮れ。
西の空に淡い紫が混ざり込んで、
風に乗って彼らの影が伸びてゆく。
ふいに、美羽は前から気になっていたことを口にした。
「ねぇ、遼くんって……
先輩たちの中で“本命”とかいるの?
なんか、いつも女子に囲まれてるから……」
遼は足を止め、ゆっくりと美羽の方へ身体を向けた。
「えぇ?
美羽ちゃん、もしかして……
俺のこと気になるの?」
「ち、違うよ!そういう意味じゃなくて!
んでもって質問の答えになってないから!」
遼は唇の片側だけを上げ、茶目っ気たっぷりに笑った。
「んー……そうだねぇ。
俺は女の子が好きだから、誰か一人の“本命”を作るって
考えたことないかな。」
(この人……今さらっとな最低なこと言ってない?……)
心の中でツッコミを入れる美羽。
歩き出した遼は、ふいに足を止め、
すっと顔を近づけた。
「でもね……」
「……っ?」
美羽の心臓が跳ねる。
遼は、美羽の髪に触れるか触れないかの距離で囁いた。
「もし俺を一番に夢中にさせてくれるくらいの魅力的な子が"美羽ちゃん"だったら……
少しくらいは考えてもいいよ?」
「っ……!」
美羽は喉がきゅっと詰まり、言葉が出なくなる。
近い。
近い近い近い。
遼の顔は整っていて、
長いまつ毛は夕日に照らされて影を落としている。
その瞳は、冗談みたいに優しくて――
でもどこか掴めない危うさがあった。
(この人……
顔が……無駄に整いすぎてるのよ!……)
美羽の頬が一気に熱くなる。
遼はそんな美羽を見て、くすっと笑った。
「ほら、顔赤くなってるよ?
ほんと、単純で可愛いね、美羽ちゃん。」
「ちょ、ちょっと!!
冗談やめてってば!!」
美羽は慌てて目をそらす。
遼は軽く肩をすくめて、
「冗談だよ。
君には“椿”がいるもんね?」
とウインクした。
またそのウインクがいちいち様になってるから腹が立つ。
「ち、違うから!!
そんなんじゃない!!」
「え〜? ぜったい怪しい〜。」
遼は楽しそうに笑っていた。
その笑顔が太陽みたいで、
なんだか悔しいくらいに眩しい。
(なんなの……
こんなんで私、心臓もたないよぉ……)
美羽は胸を押さえて、こっそり深呼吸をした。
そんな美羽のドキドキなど知らない遼は、
夕暮れの街を軽やかに歩きながら言った。
「じゃ、美羽ちゃん。
家まで送るよ。
今日は俺が君のボディーガードだからね。」
オレンジ色の世界で、
二人の影がゆっくりと寄り添うように並んで伸びていた。
光の粒を巻き上げるように、銀杏の葉が空中で回転して落ちていく。
美羽は、ため息をひとつ。
(はぁ……今日から“護衛生活”ってやつが始まるんだよね……)
昨日の生徒会での話し合いの結果、
黒い手紙への対策として、黒薔薇のメンバーが交代で美羽に付き添うことになった。
そして――最初の担当は遼。
(よりによって遼くんって……
あの人、敵ではないけど……味方にしても騒動を生むタイプでしょ!?)
そんな予感は、登校初日から見事に的中する。
*
「えぇーーーっ!?
美羽、あの年上キラーの遼くんが、今日のボディーガードなの!?」
朝からテンションMAXの莉子が、大きな目をキラキラ輝かせる。
「逆ハーレムじゃん!
むしろ羨ましすぎて私が呪われたいんだけど?」
「いやいやいやいや、そんな状況じゃないから!!」
美羽が必死に否定していると――
廊下の向こうで、黄色い叫び声があがった。
「遼くん!?
私たち年上にしか興味ないって言ってたじゃん!!」
「そーよそーよ!
ねぇ、どういうこと!? 彼女できたの!?」
「なんで急に一年の子と一緒なのよー!!」
2年、3年の女子たちが一斉に遼を囲い込み、修羅場の渦を巻き起こしている。
遼はというと――
にっこりと爽やかすぎる笑顔のまま、女子の波に飲み込まれていた。
「だからさぁ、誤解だってば。
咲良先輩も、流華先輩も、夏音先輩も、
俺が好きなのは君たち“だけ”だよ〜?」
「キャーー!遼くん!!」
「やだぁ~!!!」
「ちょっと!手を繋いでいいのは私だけって言ったじゃん!!」
女子たちの怒号と悲鳴が混ざり、廊下はもはやカオス。
美羽は顔に手を当てて嘆いた。
「……ほら。
これ、かえって拗れてるでしょ……?」
莉子は目をキラキラさせながら美羽の肩を揺らす。
「でも美羽、
とりあえず困ったら私にも言ってね?
なんでも協力するから!!」
「莉子……ありがとう……」
(ほんとに、私の周りだけ毎日ドラマみたいに忙しい……)
そんなことを考えながら、
遼を取り巻く女子の嵐を横目に教室へ向かった。
*
放課後。
夕焼けが校舎の窓をオレンジ色に染めていく。
遼は、どこか優雅な雰囲気で美羽を迎えに来た。
「やぁ、美羽ちゃん。
今日はお疲れさま。女子に囲まれちゃってごめんねぇ?」
「いや、遼くんは悪くないけど……
ちょっと派手すぎるでしょ、あの光景。」
「俺が派手なんじゃなくて、
俺を好きになっちゃう先輩方が魅力的すぎるんだよ?」
「はいはい……」
遼は軽く笑いながら、美羽の歩調に合わせて歩く。
今日の帰り道は夕暮れ。
西の空に淡い紫が混ざり込んで、
風に乗って彼らの影が伸びてゆく。
ふいに、美羽は前から気になっていたことを口にした。
「ねぇ、遼くんって……
先輩たちの中で“本命”とかいるの?
なんか、いつも女子に囲まれてるから……」
遼は足を止め、ゆっくりと美羽の方へ身体を向けた。
「えぇ?
美羽ちゃん、もしかして……
俺のこと気になるの?」
「ち、違うよ!そういう意味じゃなくて!
んでもって質問の答えになってないから!」
遼は唇の片側だけを上げ、茶目っ気たっぷりに笑った。
「んー……そうだねぇ。
俺は女の子が好きだから、誰か一人の“本命”を作るって
考えたことないかな。」
(この人……今さらっとな最低なこと言ってない?……)
心の中でツッコミを入れる美羽。
歩き出した遼は、ふいに足を止め、
すっと顔を近づけた。
「でもね……」
「……っ?」
美羽の心臓が跳ねる。
遼は、美羽の髪に触れるか触れないかの距離で囁いた。
「もし俺を一番に夢中にさせてくれるくらいの魅力的な子が"美羽ちゃん"だったら……
少しくらいは考えてもいいよ?」
「っ……!」
美羽は喉がきゅっと詰まり、言葉が出なくなる。
近い。
近い近い近い。
遼の顔は整っていて、
長いまつ毛は夕日に照らされて影を落としている。
その瞳は、冗談みたいに優しくて――
でもどこか掴めない危うさがあった。
(この人……
顔が……無駄に整いすぎてるのよ!……)
美羽の頬が一気に熱くなる。
遼はそんな美羽を見て、くすっと笑った。
「ほら、顔赤くなってるよ?
ほんと、単純で可愛いね、美羽ちゃん。」
「ちょ、ちょっと!!
冗談やめてってば!!」
美羽は慌てて目をそらす。
遼は軽く肩をすくめて、
「冗談だよ。
君には“椿”がいるもんね?」
とウインクした。
またそのウインクがいちいち様になってるから腹が立つ。
「ち、違うから!!
そんなんじゃない!!」
「え〜? ぜったい怪しい〜。」
遼は楽しそうに笑っていた。
その笑顔が太陽みたいで、
なんだか悔しいくらいに眩しい。
(なんなの……
こんなんで私、心臓もたないよぉ……)
美羽は胸を押さえて、こっそり深呼吸をした。
そんな美羽のドキドキなど知らない遼は、
夕暮れの街を軽やかに歩きながら言った。
「じゃ、美羽ちゃん。
家まで送るよ。
今日は俺が君のボディーガードだからね。」
オレンジ色の世界で、
二人の影がゆっくりと寄り添うように並んで伸びていた。



