ノアレでサンティスと過ごしていた日々が嘘のように、遠く感じられた。
あの日以来、少女は再び閉ざされた闇の中で、静かに息をしていた。
冷たい金属の天井で鈍く光る蛍光灯。
響くのは機械の低い唸りだけ。
アルファ・コア研究所。
ここは、国の中枢機関が直轄する、極秘のルクシミウム実験施設だった。
リアはその地下区画に、再び囚われていた。
膝を抱えて、薄暗い壁際にうずくまっていた。
拘束具を外された腕には、青い痣が残っている。
あの日から、何日経ったのかも、もう分からない。
夜も、朝も、区別がない世界。
ただ、記録と実験のスケジュールだけが、リアのすべてを支配していた。
彼女の目に映るものは、色を失い、音は遠く。
それでも、リアの胸の奥には、小さな光の種があった。
『私は君に、人として生きてほしい』
『君は、君らしく、生きていいんだ』
あの日のあの言葉たちが、リアの胸の奥で光を放つ。
その声だけは、どんな痛みの中でも、消えなかった。
扉が開く。
無機質な靴の音が、床を軋ませる。
「実験対象を搬送する」
白衣を着た助手が、リアの腕を無言で掴んだ。
彼女は抵抗しなかった。
されるがまま、歩かされる。
通されたのは、見慣れた実験室。
冷えた空気。
白い拘束台。
金属の匂い。
「さあ、今日も始めようか」
セリオの唇の端が、わずかに歪む。
「今日は新しいプロトコルを試す。前回の数値は良好だったが、まだ限界点には届いていない。今回は、直接的な神経接続を試す」
リアの首元に手が伸びる。
細いコードが、肌に触れた瞬間、コアがかすかに脈打つ。
「感情という曖昧な指標では、コアの制御は不安定すぎる。君が失ったそれを、わざわざ取り戻す必要はない。理性と数値で、完全な兵器に進化させる方が合理的だ」
そう語りながら、彼は静かにリアの頭部に装置を装着していく。
瞳を閉じる。
装置が作動する。
刺すような痛みが、また訪れる。
でも、怖くはなかった。
もう、何もかも、わからなくなっていた。
深い鈍さが、彼女の心を包んでいた。
「閾値超過。コアの反応、上昇中」
「感情抑制レベル、最大。反応持続確認」
助手の声が、遠くで響く。
リアは、ただ、耐えていた。
痛みにも、孤独にも。
ずっと。
その日々は、終わりのない螺旋のようだった。
訓練と称した実験。
食事は最低限。
会話は記録の読み上げだけ。
眠りの中でも、夢はなかった。
それでも。
リアは、生きていた。
あの声が、心の奥で、消えずにいたから。
