それでも、この世界で、光を


次の日、リアは無言のまま、白い廊下を歩かされていた。

手首には冷たい拘束具。
足取りは重いのに、背後の兵士たちは急かすように押しやってくる。


やがて、扉の前にたどり着いた。
無機質な金属のドアが、音もなく左右に開く。

「対象、搬送完了しました」

誰かの声とともに、明るすぎる白色灯が視界にしみる。
それは、実験室と呼ばれる場所だった。

壁も天井もすべて白。
何の温もりもないその空間には、無数の機械装置と、
リアのためだけに用意された拘束台が鎮座していた。

「さあ、始めようか」

セリオの声が響く。
彼は白衣に身を包み、グローブをはめながら、感情のない声で言った。

「今日は、君の反応閾値を調べたい。どの程度の刺激で、ルクシミウムが活性化するか」

リアは押し倒されるように台に乗せられ、手足を金属の拘束具で固定されていく。
目を伏せても、機械の音と、誰かの足音だけがどこまでも響いてくる。

その時、ドアの脇に控えていた人たちの中で、一瞬だけ目を引く姿があった。
白衣の下に軍服が見える。
他の人たちが無表情で観察を続けるのに、
ただ一人、彼だけがリアの姿に目を見張り、唇をかすかに引き結んでいた。


やがて、細い電極が何本も肌に当てられ、ルクシミウム・コアの測定装置が稼働を始めた。

「痛み。恐怖。混乱。感情の高まり。それらがコアを呼び起こす。だとすれば、どこまで感情を追い込めば発動するか。その臨界点を知ることが、次の段階に必要なんだ」

セリオは機械のパネルを操作しながら、淡々と話し続ける。

「君にとっては苦痛かもしれないが、これは君自身の制御権を取り戻すための訓練でもある。そう考えてくれ」

リアは何も返さなかった。
ただ、眉を寄せて小さく息を呑んだ。

低周波の電流が流れると、彼女の細い腕が小さく跳ねた。

肌が焼けるように熱くなる。
背中が反射的にこわばる。
微かな焦げた匂いが、機械の熱とともに鼻を突いた。

「……反応なし。閾値、上げろ」

その瞬間だった。
あの男が一歩前に踏み出し、思わず声を上げた。

「やめろ! まだ子どもだぞ、こんなのは──!」

その声の主を取り囲むように、兵士たちは一斉に動き、男の肩を掴んで押さえつける。
男は必死に抵抗しながら、なおもリアを見つめた。

「これが本当に平和を作る方法なのか!? こんなやり方で……!」

うめくようなその声が、リアの耳に届いた。

「連れ出せ。二度と現場に入れるな」

セリオが命じると、男は力ずくで廊下の奥へと連れ去られていった。

「続けよう」

セリオの低い声が響くと、再び全身に痛みが走る。
リアは、ただ耐えていた。
言葉も、表情もないまま。

泣くことさえ、知らなかった。

痛みは、次第に感覚を超えて、身体の奥にじわりと染み込んでいった。

やがて、首に装着されたセンサーが青く点滅する。


「……反応あり。コア、微弱ながら活性化」

セリオの口元がわずかに歪む。

「いいぞ、コアは応えている。……もっと見せてくれ。君ならできる、そう信じているんだ」

リアの瞳に、青い光が走る。
それはきっとまだ、悲しみではない。
怒りでも、恐怖でもない。

ただ、何かが、かすかに彼女の胸の奥で小さく揺らめいていた。


「終了。記録を残せ。次回は、刺激装置Bへ移行する」

無表情な助手の声とともに、拘束が外される。

リアは、ゆっくりと身を起こす。
手足は震えていたが、口を開くことはなかった。

何の言葉も知らなかった。
そのまままた、白い廊下を歩く。
どこへ行くのかもわからないまま。

リアは、それが当然なんだと、思っていた。