そのとき──
無線の雑音が走る。
「被験体の情動反応上昇中……覚醒の兆候あり!」
「プロジェクト通り、対象“イファ・エルネス”を排除する」
──耳に届いたのは、イファの名だった。
リアは、はっと顔を上げる。
「イファ!」
同時に、兵士たちの銃口が、イファへと一斉に向けられた。
「やめて!!」
イファも即座に身を翻し、銃を抜こうとする。
だがそれより早く、乾いた破裂音が空気を裂いた。
リアの視界に、赤が散った。
「イファ……っ!」
その名を呼んだとき、彼は目の前に崩れ落ちていた。
胸元には赤い血が滲む。
「だいじょう……ぶ、だって……」
力なく笑うイファの声はあまりにもかすかで、リアの胸を貫いた。
彼の鼓動が、どんどん弱くなっていく。
それを見て、リアの全身を恐怖が駆け抜けていった。
「やだ……やだよ……お願い、行かないで……!!」
次の瞬間、彼女の体からあふれたのは、透き通るような青白い光。
光は波紋のように広がり、彼と自分の周囲を包み込む。
まるで守るように。
そして、癒すように。
セリオが、目を見開く。
「これは……」
淡く、しかし確実に世界を拒むような光。
それは破壊ではなく、守るための力だった。
空気が震える。
周りを囲む軍の兵士たちは目を見開き、誰もがその光景に釘付けになった。
「生きて……お願い……!」
リアは泣き叫ぶように、イファの傷口に手を重ねる。
力ではない。
ただ心からの願いだった。
そしてその祈りに応えるように、イファの血が止まり、傷口がゆっくりとふさがっていった。
その直後、イファの瞼がわずかに動いた。
「……イファ……」
頬に触れた彼の肌が、少しずつ温かさを取り戻していく。
その光の中で、リアの脳裏に“何か”が走った。
リアの瞳が白銀に染まる。
──白い天井。
冷たい手錠。
誰かの声。
身体中の痛み。
そして、セリオの、あの日の瞳。
失われた記憶の断片が、堰を切ったように流れ込んできた。
「……っ…あぁあ…っ…!」
リアは声を上げ、頭を抱える。
強すぎる記憶の奔流に、視界がゆがむ。
ひとりきりの闇。
身体がちぎれそうな孤独。
すべて一つになって押し寄せる。
けれどリアは逃げなかった。
その光を、その記憶を、自分の中に受け入れた。
そしてその中に、ひとつ、たしかに残るものがあった。
サンティス──
『ありがとう。君が、いてくれてよかった……』
痛みとともに、世界が遠ざかっていった。
そして、瞼の裏に滲んだのは、まだ知らぬ自分の失われた記憶だった。
