それでも、この世界で、光を


ノースフィアを発ってから、いくつもの日が過ぎた。
アルメリアを抜け、山を超え、谷をわたり、
ようやくたどり着いた。

夕暮れが空を染め、灰色の雲が町を覆っている。

イファは、広場に一人、立っていた。

そこは、三年前まで町だった場所の中心。
かつてノアレと呼ばれたこの町は、その面影すら残していない。

焦げ跡の残る石畳を見つめながら、イファはしばらく言葉を失っていた。

焼け焦げた柱の残骸。
錆びついた看板。
ねじれた鉄骨が空を指している。

そこにあったはずの生活の痕跡は、風にさらわれ、
まるで最初から何もなかったかのようだった。


「……ここが、ノアレ……」

あの日、光の中にあった場所。
リアの故郷。

そして、今、ここのどこかにリアがいる。

イファは拳を握りしめた。



そのときだった。
背後から、音もなく一人の男が現れた。

「来ると思っていたよ」

柔らかな低い声が、空気を切るように響いた。
イファは振り返る。

そこに立っていたのは、セリオだった。

冷ややかなヘーゼルの瞳。
表情は穏やかなまま、イファの全てを見透かすように微笑んでいた。

「セリオ……」

イファの声が低く震える。

「リアはどこだ」

イファが詰め寄る。
その声には明らかな緊張が滲んでいた。

セリオは、肩をすくめるように笑った。

「リアは今、覚醒に向けて準備をしているよ。君たちが必死に守ろうとしていた“それ”は、もはや人ではない」

一拍、間を置いてから、
彼は続ける。

「いや……最初から、兵器だったんだ」

「どういうことだ」

イファは、目の前の男を睨みつけた。

「……彼女の中には、ルクシミウムの結晶核がある。ルクシミウム・コアだ。その莫大なエネルギーが、彼女を――いや、“それ”を動かしている」

「リアは人間だ! 心を持っている!」

誰よりも傷つき、
誰よりも優しかった。

誰かのために涙を流せる、
そんな存在が、兵器なものか。

「あれが人間か……」

セリオは、嘲るように息を吐く。

「笑わせるな。人間に見えるだけの器でしかない。その中身は、恐ろしくも美しい、神の力そのもの」

淡々とした声で、言い切る。

「誰もが恐れ、誰もが祈り、そして欲しがった力だ。人類の進化の果てに生まれた“神の力を宿した光の核”」

セリオの視線が、空虚な町をなぞった。

「――あれは、紛れもなくこの世で一番恐ろしい兵器だ」

イファは、一歩、前へ出た。
唇を、強く噛み締める。

「リアは……兵器なんかじゃない……!」

セリオはその言葉に、静かに目を伏せる。
そして、微かに鼻で笑った。