それでも、この世界で、光を



映像は、そこで唐突に途切れた。
リアは、息を呑んだまま動けない。

やがて、震える足で立ち上がろうとするも、膝が力を失いかける。


記憶にはない。


けれど──体が覚えている。
あの光の中に、自分がいた。

皮膚の奥が焼けるように疼き、体の奥から、底知れない恐怖が這い上がってくる。


「……こんな……」


震える手で記録ファイルを切り替えると、白衣を着た男が映っていた。

──サンティス。


『この記録はリアに残すためのものだ。きっとリアに届くころには、私はもうここにはいないだろう。だが、それでも伝えておきたい。ノアレで起きたことのすべてを』

リアは、震える体に力を込め、小さく息を吸い込み、目の前の男の話に耳を傾ける。

『……あの事故の原因は、冷却回路の非常弁が同時に破裂したことだった。想定を超える圧力が逆流して、地下水脈に高温ガスが入り込んだ。その結果、水蒸気爆発が起きて、市街地のほとんどが崩壊した。……住んでいた人々も、みんな光に飲み込まれてしまった』

リアは胸の前でぎゅっと手を握った。
画面に向ける目が逸らせないまま、リアの呼吸は浅く、速くなっていく。

『ノアレは、政府にとって“都合のいい町”だった。人口が少なく、山に囲まれていて外との接触も希薄。南には砂漠が広がっていた。政府は、衰退していたノアレの町に莫大な金と仕事を用意した。反対していた住民たちも、納得せざるを得なかったんだ』

「……どうして……」

声にならないほど小さな声が漏れた。
喉の奥で、痛みのようなものがせり上がる。

『私も、最初は従った。世界平和の名のもとに、ルクシミウムの研究は続けられていたんだ。私は、美しいルクシミウムの可能性に魅せられていた。世界を変える力だと、本気で信じていたんだ』

映像の中の男は、そっと目を伏せた。

『……ただ、計算上、弁の逆流によって、実験が失敗に終わる可能性もあるとわかっていた。私は何度も止めたんだ。しかし、政府や軍は失敗する可能性は、ほぼゼロパーセントだとして、私の意見を聞かずに強行した』

サンティスは息を吐き、続ける。

『……止められなかった。ルクシミウムも、軍や政府の力も。彼らは今すぐにでも戦争を終える、そして抑止力になる“兵器”を求めていた。ヴァストラ帝国に勝つために。ルクシミウムの力を、人を殺す道具に変えようとしていたんだ』



──すべてが、繋がっていた。事故は偶然ではなかった……ノアレは、最初からそのために選ばれた…?──



『私は、事故の中で君を見つけた。瀕死の状態だったが、奇跡的に生きていた。あの町で生きていたのは、リア……君、ひとりだった。私は君を救いたかった』

サンティスの声は、かすかに震えていた。

『それは、善意なんかじゃなく、自分のエゴだったのかもしれない……。その光が、いつか誰かの希望になると信じていたんだ。……ルクシミウムは…たしか……君を……救った…が…おおき……代償を……』

映像が固まって動かなくなってしまった。

──代償?


リアは、映像端末をそっと閉じた。

呼吸をひとつ整え、リアは震える手を胸元に添えた。

あの光の中にいた自分を、思い出すことはできない。
けれど、向き合わなければいけない。

この惨劇の果てに、自分が何を託され、生かされてきたのか。
リアは、端末を見下ろしながら、静かに呟いた。

「……わたしは、その続きを、知らなきゃいけない」

静寂の中で、見えない歯車が
またひとつ、音を立てて回り始めていた。