イファが仕事へ出かけたあと、リアはマリナとふたりで柔らかな時間を過ごしていた。
それは、ここで、紛れもなくリアが積み重ねてきた変わらない日常だった。
けれど、リアの心は重たい鉛を抱えていた。
窓の外を眺めながら、そっと胸に手を重ねる。
セリオが告げた危険という言葉が、耳の奥で何度も反響していた。
──私は、本当にここにいていいのだろうか
そんな疑問がリアを蝕んでいく。
そのとき、控えめなノックの音が響いた。
「リア? 私よ、ミナ」
リアは少し驚きながらも、扉を開けた。
そこには心配そうに微笑むミナの姿があった。
「ちょっと顔が見たくてね。……入ってもいい?」
「もちろん」
ミナは家の中へ入る。
「マリナさん、こんにちは。お邪魔してもいいですか?」
「もちろんよ、いらっしゃい。私はお茶を淹れてくるわ。二人でゆっくりしていてね」
しばらくして、湯気の立つティーカップが二人の前に置かれる。
マリナは「ごゆっくり」と笑顔で一言こぼして、自室へ向かった。
リアは湯気越しに、そっと視線を落とした。
少しの沈黙が続き、やっと出た言葉は、ほんのわずかに揺れていた。
「……ごめんね、ミナ。せっかく来てくれたのに……。ちょっと、考え事をしていて……」
ミナは軽く首を振る。
「そんなの気にしないで。心配だったから、少しでも顔が見られてよかったわ」
優しい声だった。
