それでも、この世界で、光を


リアは、サンティスの記録に残された言葉を静かに受け止めて、小さく呼吸を整えた。


動揺は、もうどこにもなかった。


その隣で、イファの目に溜まっていたものが、一気にあふれ出す。
抑えていた感情が、もう止められなかった。

再生された映像の中のサンティスは、
真正面からリアを見つめるように、穏やかに語った。

『どうか、自分を信じて。君は、君のままでいい。そのままで、世界と向き合ってくれることを……私は、祈っている』

再生が終わると、部屋に静寂が落ちた。
リアはそっと瞼を閉じ、胸に手を当てる。
コアの鼓動が、遠くで響いているような気がした。

「……サンティス博士は、最後まで……わたしを信じてくれてたんだね」

彼女の声は、小さく震えていたが、その奥には揺るぎない意志があった。

イファは、そんなリアの横顔をじっと見つめる。
胸の奥からせり上がる想いが、言葉になってあふれた。

「こんなの……あんまりだよ……! こんな運命、リアが背負わなきゃいけないことじゃない! リアは……リアは、普通の、女の子なんだ……! ただ……それだけなのに……!」

その言葉に、リアは少しだけ、微笑んだ。

「イファ……ありがとう。あなたのおかげで、私は自分の未来を選べるようになったの」

リアが歩き出したそのとき、イファは思わずその手を掴んだ。

「リア、待って」

振り返ったリアの表情は、どこまでも静かで、
もう、すべてを受け入れたかのようだった。

イファの喉が詰まり、うまく言葉が出てこない。

「……リア……嫌だよ……行くなよ……!」

やっとの思いで搾り出した声は、かすれて震えていた。

「リア……!」

どうして。
どうして君がそんな決断をしなきゃならない。
どうして一人で全て背負うんだ。

守りたかった。
何気ない日々を、失いたくなかった。

「リアと一緒に帰ってくるって……母さんと、そう約束したんだ」

この手からこぼれ落ちないように。
今後こそって。

「まだ……リアと一緒に、笑っていたい……」

いつまでも隣で笑っていてほしかった。
その笑顔を守りたかった。

ただ、未来を夢見て。


「一緒に生きていきたい……!」


リアの瞳から、涙が一筋、こぼれ落ちた。

「俺……まだ、何も伝えてない……。どれだけ、リアに救われたかも……、リアのことが、どれだけ大切かも……」

震える声のまま、イファは、叫ぶように言った。

「……リアのことが、好きなんだ……!」

リアは、そんなイファに、やさしく微笑んだ。

「……ありがとう。わたしに、愛を教えてくれて。こんなにも、あたたかいものなんだって……。生きることも、幸せも、出会ったときからずっと、イファが教えてくれたから」

彼女は、そっとイファの手を取った。

「……大丈夫。泣かないで。あなたと過ごした時間が、わたしに選ぶ勇気をくれた」

その言葉を聞いて、イファはようやくわかった。

もう決めたんだ、と。
迷いなんてないのだ、と。

イファは手を強く握ったまま、目を伏せた。
そして深く、息を吸い込む。

「……わかった……。これは、リアが自分で、選んだ道なんだ……」

袖で涙を拭うと、イファは顔を上げる。
深緑の瞳がリアをじっと見つめた。

「リア……。リアと過ごした日々は、おれの宝物だ。リアが笑ってくれた瞬間、世界が明るくなった。リアと過ごした時間は、おれにとって……この世界の全てだった」

「うん……わたしも。イファと見たこの世界は、どこまでも優しくて温かかった」

柔く頬を緩めたその表情は、泣きたいほどに、優しかった。
触れたら壊れてしまいそうなリアを、イファは強く抱き寄せた。

「リアが選んだ道を、おれは最後まで、見届ける。だから、最後までリアのそばにいさせて」

「イファ……あなたと出会えて、本当によかった」

世界中の、誰よりも祈っている。

「あなたの生きる世界がきっと、これからも優しい世界でありますように」