快楽地獄への螺旋

 深夜0時45分。

 ミサキはもう三日間、ほとんど眠っていない。

 スマホの画面だけが、薄暗いワンルームを青白く照らしている。
 ブラウザのタブは32個。すべて同じサイト——「発展映画館リアルタイム報告板」。
 そこに今日も、新しい書き込みが上がっていた。

【18番 最新】
「今、3階奥の個室トイレにババア女装子いる。
 網ストッキング破れて、口紅ベチョベチョ。
 アナルから精液垂れてる。誰か追加でイカせてやって」

 写真が3枚添付されていた。

 1枚目:鏡に映る自分の顔。涙と精液でぐちゃぐちゃ。
 2枚目:スカートが腰まで捲れ、網ストッキングが太ももまで裂けている。
 3枚目:便器に座ったまま、股を開いて垂れ流す白濁液。

 ミサキは震える指で、自分の投稿だと気づいた。
 ——自分が、誰かに撮られていた。

 心臓が耳鳴りのように暴れる。
 逃げなきゃ。
 もう行かない。
 明日から普通のジジイに戻る。
 そう決めたはずだった。

 でも、指は勝手に動いた。

 「今から3階行きます。
 ミサキです。
 誰か来てください」

 送信ボタンを押した瞬間、下腹の奥が熱くなった。

 4時17分。

 映画館の3階個室トイレ。
 ドアの外に、すでに5人。
 全員、スマホのライトを点けて、獲物を待つ獣の目だ。

 ミサキは這うようにして入った。
 スカートはもう履いていない。
 網ストッキングは膝まで裂け、ガーターベルトだけが虚しく残っている。

 最初の男が無言で近づき、首を掴んで壁に押し付けた。
 タバコと酒の臭いが鼻を突く。
 次の瞬間、口の中に熱いものが押し込まれた。

 「ババア、今日は何回イカせてほしい?」

 ミサキは答える代わりに、喉の奥で喘いだ。

 ——もう数えていない。

 アナルに挿入されるたび、頭の奥で何かが千切れていく。
 誰かがスマホで撮影している。
 フラッシュが光るたび、ミサキの体は勝手に反応してしまう。

 「ほら、カメラ見て。
 お前が望んだんだろ?」

 最後の男が終わった時、床は白い水溜まりになっていた。
 ミサキは便器に座ったまま、震える手でスマホを開いた。

 板はもう炎上していた。

【18番 爆速更新】
「ババア女装子、3時間で12人抜きwww」
「動画うpした」
「明日も来るってよwww」

 ミサキは画面を見つめながら、
 ふと気づいた。

 ——もう、戻れない。

 指が勝手に動く。

 「明日も来ます。
 誰か、もっとたくさん……」

 送信。

 画面が光る。
 返信が一瞬で100を超えた。

 ミサキはゆっくりと立ち上がった。
 アナルからまだ熱いものが垂れ落ちる。
 それでも、唇が自然に笑みの形を作っていた。

 快楽地獄の階段は、
 もう底が見えない。

(第5話 終わり)

次話へ続く……