Excalibur

 ◇対流圏上空◇



 ゴォオォオ――……。
 展開されたバックパックのロケットスラスターが熱蒸気を噴き上げている。
 ネコ耳を羽ばたかせ逃げてゆく化け猫を、コズエは脅威と見做さなかった。
「オーラ反応……複数」
 キュィィ――……。
 左眼奥に埋設された電子系統が地上に巨大サーモ反応を複数探知している。
 その一部は異質な霊気を帯び、――未知のモンスターの可能性が高い――。
 連中が何処から湧いて来るのか、上層部からの連絡も無い以上不明の状況。
 異形の群れを殲滅し、街の平和を少しでも保つべきとの判断に至っていた。
「……ジュン?」
 ゴォォォォ――……。
 対流圏独特の豪風に煽られながら、爛々と輝くネコ眼がジュンの姿を映す。
 駅から然程遠くない距離――、市街地の付近に、彼と見慣れない女が居る。
「……セレスと、……アレは?」
 紫色の髪の女は見覚えがある。が、青い髪の女子は現状、存在していない。
 過去ディアナという異星人が居たには居たが、遺跡の調査で失踪したハズ。
「……モンスターが複数と、……巨大な霊質を持った魔獣が一匹……」
 キュィィ――……。
 霊気探知センサーが、魔獣の群れの中でも一際大きな霊力を感知している。
 かつて感知した事のない異質な霊力だ。ジュンの加勢に向かう必要がある。

 ◇青海市街地◇



 オォオォオ――……。
 怒りに忘我を失いかけるセレスを、ジュンの冷静な一声が辛うじて制する。
「勝負事はカッとなったら負けだぞ、セレス」
「……え、えぇ……そぅですわ。ジュンさん」
「そーだよぉー。セレスらしくないぞぉー?」
 割と能天気なカミュのアニメ声が、セレスの滾った怒りを鎮火させてゆく。
「ぅふふ。貴女はいいわね。何時も能天気で」
「ぇー? その言い方はないよぉセレスーっ」
 ぶーっ。
 不満気に唇を尖らせて抗議するカミュを眼に、落ち着きを取り戻すセレス。
「グモォォォォオオオ……ッッ」
 ズシィン、ズシィン――ッ。
 身の丈三Mは超えようかという巨体が地響きを立てる。近接する羆型魔獣。
「来る……っ。皆、あの魔獣には物理攻撃が効かないわよ……っ」
「だよねー。でも安心なさいっ! ぁたしの技なら大丈ヴいっ♪」
 ビシ――ッ。
 身構えるセレスの傍で、白い歯を見せながらヴイサインを突き出すカミュ。



 彼女には、ディアナに教えて貰った必殺技、フォトン・ブラスターがある。
「……お前ら、少しだけ退がっていろッ」
 ――ザッ。
 何事か思案していたジュンが意を決した様に一歩、二人の前へと歩み出た。
「ジュン、……さん?」
「ぁんたらしくないなー。セレスの前だから、格好つけてンの?」
「そんなんじゃない。あの魔獣から少々、危険な匂いを感じてな」
 おぉおぉお――……。
 肩越しに女子二人を見やるジュン。その切れ長の双眸が薄っすら微笑った。
「ぁーっ! 何それぇーっ。ジュンってば格好つけてるぅーっ!」
「……ジュンさんだけでは危険ですわ。私達も加勢致しますっ!」
「いや、俺一人で十分だ。本物の神霊力というものを解らせたい」
 ザッ、ザッ――。
 二人を腕一本で制すと、ジュンは背を向けて魔獣の下へと歩み寄ってゆく。