◇コンコース◇

オォオォオ――……。
対峙するコズエ――。相手は銃の形をした神具メデューサを携えたアテナ。
つい今しがた、土中から飛び出したアーマーゴーレムを粉砕したばかりだ。
軍神と謳われたマルスはハデスの『介護』に付ききりで仕掛けては来ない。
「ねぇ、アテナ? ……今回の動乱の首謀者って、本当にハデスなの?」
今回の大掛かりなアジェンダ。長年計画してきたであろう事は見れば解る。
だが、腑に落ちない点がある。計画が大雑把過ぎる上、着弾点が見えない。
(……)
ユノは休戦条約を反故にする様な事はしない。謀反を期すとすればハデス。
あの小悪党であればさもありなん。が、些か計画が早計、かつ稚拙過ぎる。
が、あの要介護状態――。痴呆症状が進行しているとすれば、辻褄は合う。
「さぁ~。ユノ様は何も言ってなかったから、多分そうなんじゃない?」
「随分と呑気な言い分ね。私はショウビズ界に早く戻りたいのだけれど」
マンハッタンのブロードウェイでの主演ミュージカルの興行の最中だった。

先程緊急招集を貰って出向いた先での戦闘行為だが、相手は認知症ときた。
「ブロードウェイのミュージカル。貴女が主演の、アレ私も見たよっ♪」
「……っ。……出来栄えはどうだった? 私のオスカル役の御感想は?」
「素敵だったよぉ。後でサイン貰っていい? オスカル好きなんだぁ~」
「……そぅ。貴女も舞台が好きなのね。……趣味の合う相手は久しいわ」
――手早く済ませて在るべき舞台へと戻り、小さな観衆を喜ばせたい――。
嘗て小さな女の子から貰ったキティーのリストバンドは大事に纏っている。
「良ければ今度のオーディション受けてみる? 私、審査員もしてるの」

「えぇ~。本当ぉ? ハリウッドスター。実は私の憧れだったんだぁ~」
オォオォオ――……。
コズエにとって嘗てない譲歩だったが、アテナは適当にはぐらかしている。
「だったら何時までも耄碌した老人に従うのはやめなさい。貴女の為よ」
「有り難う♪ 貴女の申し出、折角だから受けてみよっかな。つっても」
キィィ……、――ガシャンッ。
自前のマグマを装填すると、アテナは手慣れた動作で銃身をラフに構える。
「この戦いで私が生きてたら、だけど? そろそろ攻撃していいかな?」

「どうぞ。言っておくけど手加減はなし。全力で潰すからそのつもりで」
――チャキ。ヴゥ――ン……。
電磁モードに切り替わった高周波ブレードの刀身が禍々しい煌めきを放つ。
「何時でもいいわよ。何処からでも。来ないならこっちから行くけど?」
「ぅ~怖っ♪ 憧れのウリエル様に斬首されるのも悪くはないかもね~」
きゃはははは――っ。
頭の螺子が飛んだかの様な哄笑が弾けた。アテナが乾いた笑い声を立てる。
◇コンコース◇

「義姉さん、……コイツぁ、……俺達の出る幕ぁなさそうじゃねーか?」
「うむ。アテナはあのロボットに任せておこう。我々はハデスの撃破だ」
「ロボット。くぅ~、相変わらず言い方キツいねェ、義姉さん毒舌ゥ♪」
独特の軽妙な軽口で姉貴分をからかうジャッカル。あのレディも上機嫌だ。
「なら鉄腕アトムレディーというネーミングはどうだ? 悪くあるまい」
「義姉さん、歳バレするっつッてンだが、何とかなンねーか、その……」

「――お寒いオッサンギャグッ!」
「あぁああっ! 思い出したぁ!」
「ッ!? ンだよいきなりよォ?」
「ジャッカル、私は至急ストラディ邸にお伺いに向かわねばならんのだ」
「何故今? 急過ぎンだろ。天然ボケに振り回される身にもなれよな?」
「……とゆーワケで、私は魔界に出向かねばならんっ! 後は頼んだぞ」
コツ、コツ……――。
離脱しようと身構えるレディの下へ、一体の人影が優雅に歩み寄って来る。
「……その必要はありません事よ? 魔界の女騎士レディ・ハルトマン」
「んあ? ンだて前ェは……ッ、つか、お前ェ、……ガーランド、か?」
予想だにしなかった来訪者にジャッカルが息を呑んだ。レディも瞠目する。
「ゾーイ。……ゾーイ・ガーランド。魔界国令嬢ストラディの第一側近」
「ご機嫌麗しゅう。お久しぶりで御座います。生存しておいでで何より」
オォオォオ――……。
黒を基調とした煌びやかなベリーダンス衣装に身を包んだ長身痩躯の美女。
パリコレに居そうなスーパーモデル体型。ミステリアスな中東系の美女だ。
アラビアンを彷彿とさせる漆黒のフェイスベールで口許を覆い隠している。
「……っ!」
魔界令嬢。現世を裏統治する黒貴族と目される最上位階級の王族の一人娘。
その第一側近であるゾーイが、何故この荒んだ辺境地に単身来訪したのか。
「……ゾーイ。何故お前程の真の実力者が、この様な辺境の地に……?」
ザッ――。
正面から向き合うと、レディは身なりを糺す。相手の方がカースト上位だ。
魔界にも厳然たるカーストが存在し、厳しい誓約が在る。血の掟は絶対だ。
「まさか、……」
逡巡する一刹那、レディの思考をまるで先読みしたかの様に女が会釈する。
「左様で御座います。御察しの通り、ストラディ嬢よりの御用命で――」
「んだよ、あの箱入り娘が今回のハデス討伐の為に動いたッつーのか?」
「……仰せの通り。ハデスの背後に犇めく謀略を邪推した結果でしょう」
「……ハデスの背後だと……? 何か陰謀めいた力学でも動いてンのか」
ザッ――。
真意を問い質すべく、長身美女ゾーイの眼前に敢然と佇立するジャッカル。
権謀術数では敵うべくもないがジャッカルも嘗て名を馳せたスレイヤーだ。
今回のハデスの動乱が、曖昧で筋が通っていない事は既に見透かしていた。

「……動乱を引き起こした影の黒幕、及びその目的を述べよ、……てか」
「お判りになりますか? 私の波動水晶は事件の本質を見極めてますが」
おぉおぉお――……。
フェイスベールに覆われた口許が、二ッと嗤う。傍らで様子を窺うレディ。
「ケッ、俺を試そうってか。相変わらずゾーイ、お前は嫌味な野郎だぜ」
「口を慎めジャッカル。御令嬢の腹心の御前だ。それか私が代わるか?」
「義姉さん黙ってろ。これは俺の問題だ。奴さん俺を値踏みしてやがる」
ギリリ――……。
歯噛みするとジャッカルはゾーイを睨みつけた。身体のラインが丸見えだ。
透けたレース柄の瀟洒なベリーダンス衣装。豪奢な下着もはっきり見える。
「……ケッ。腹黒女狐が……ッ」
――キィン――……。(邪眼の展開音)

(ブラックホールじゃねェかッ)
が、――腹の底は暗黒の様に暗く、邪眼を以てしても本心が全く視えない。
「ま、……貴方の神霊力はそんな所でしょう。私の足元にすら及ばない」
おぉおぉお――……。
口許を徐々に広げ、にたりと勝ち誇ったいやらしい笑みを浮かべるゾーイ。
「抜かせ……ッ。お前の邪悪な腸なんぞ読まずとも真相は掴めるさ……」
スレンダー美女に涼やかな視線を注いだまま、ヘラヘラと笑うジャッカル。
が、――内心、負けを認めてはいた。霊感に関してはゾーイの方が格上だ。
「……あら。酷い言われようですこと。レディ、貴女はどう考えます?」
澄まし顔のゾーイが、さして興味もなさそうな眼を気怠げにレディへ移す。
「……知るか。私は突撃隊長だ。御存知だろ? 権謀は苦手な性分でな」
「でしたね。ふふ。……さて、あの様子だと、勝負は一瞬でつきそうね」
おぉおぉお――……。
遠間で異星人と対峙するコズエに眼を向けるゾーイ。真珠の様な瞳が嗤う。
◇学園校舎前◇
オォオォオ――……。
太鼓ッ腹の中年男と眼鏡の男が、ギラついた眼差しをジュンに注いでいる。
薄暗い怨嗟の情念が、……鬱屈した怒りの矛先が自分に向かうのを感じた。
「んだよ、アイツら……。だから、こうなるから嫌なんだよ……」
カミュに批難の眼を向けるジュン。築いた関係性が拗れる事態は避けたい。
「ご、ごめんね、……ぇっとぉ、ジュン、……で良かったっけ?」
「あぁ、それでいいよ。お前は性的なアピールを少し慎むべきだ」
あくまでも冷静に第三者の視点で助言するジュン。カミュには節度がない。
節操のない性的な関係性は搾取の格好の対象だ。凶悪犯罪にも繋がり易い。
「べ、別にアピールとかしてないしぃ。ぁたしは悪くないもんっ」
「ぅふっ。『ディアナ』はね、天真爛漫な友達だから無理なのよ」
カミュを庇うかの様にフォローを差し挟むセレス。何らかの義理を感じる。
が、――その義理は、果たしてカミュを正しい方向に導けているだろうか。

「無理な訳ないだろ? お前、結構、頓珍漢な事を言ってるよな」
「はぁ? 私は彼女に思いのまま自由に生きて欲しいだけで……」
柄にもなくセレスが美貌をムッとしかめた。正論に怯んだのだろうか――。
「律するべきところは律する。それが人道だろ。まぁ分かったよ」
セレスに反発しても仕方がない。彼女は異星人だ。文化も考え方も異なる。
が、――己の掲げるポリシーだけは曲げる訳にいかない。だから誤魔化す。
「なぁ、お前らって、そんな仲良かったっけか? 何時からだ?」
「ぇへっ。ぁたし達は昔っからだよぉ~♪ ね~、セレスぅっ♪」
「ぇ? ……あ、……そ、そうだよぉ? 昔からの、無二の……」
ぎごちない笑顔を浮かべるセレス。だが、その美貌が寂し気に曇ってゆく。
「セレス……? どうした?」
「ぃえ、別に、何でも……っ」
健気に微笑む彼女ではあったが、傍目に作り笑顔と解るのが逆に痛々しい。

「……? ……セレス……?」
今度はセレスが急に心配になってきた。カミュに、――何かされたろうか。
意地悪する様な少女ではない。が、古傷に触る様な事をしたかもしれない。
(……――ッ)
いや、それよりも先ずセレス自身が闇を抱えている様に見えて仕方がない。
鬼軍曹と謳われるその陰に、悲壮な何かを隠し持っていやしないだろうか。
「ねぇジュン、……ちょっといい?」
クイクイと袖を引っ張られ、視線を下げた先に青髪の少女が見上げている。

「ん? あぁ。……でも、何処へ? あとお前、セレスに何かしたか?」
「いいから。早くこっちへ来てっ♪ ぁんたに拒否権ないんだからっ♪」
ザッ――。
ディアナに変装したカミュに先導されて、ジュンは体育倉庫へと向かった。


オォオォオ――……。
対峙するコズエ――。相手は銃の形をした神具メデューサを携えたアテナ。
つい今しがた、土中から飛び出したアーマーゴーレムを粉砕したばかりだ。
軍神と謳われたマルスはハデスの『介護』に付ききりで仕掛けては来ない。
「ねぇ、アテナ? ……今回の動乱の首謀者って、本当にハデスなの?」
今回の大掛かりなアジェンダ。長年計画してきたであろう事は見れば解る。
だが、腑に落ちない点がある。計画が大雑把過ぎる上、着弾点が見えない。
(……)
ユノは休戦条約を反故にする様な事はしない。謀反を期すとすればハデス。
あの小悪党であればさもありなん。が、些か計画が早計、かつ稚拙過ぎる。
が、あの要介護状態――。痴呆症状が進行しているとすれば、辻褄は合う。
「さぁ~。ユノ様は何も言ってなかったから、多分そうなんじゃない?」
「随分と呑気な言い分ね。私はショウビズ界に早く戻りたいのだけれど」
マンハッタンのブロードウェイでの主演ミュージカルの興行の最中だった。

先程緊急招集を貰って出向いた先での戦闘行為だが、相手は認知症ときた。
「ブロードウェイのミュージカル。貴女が主演の、アレ私も見たよっ♪」
「……っ。……出来栄えはどうだった? 私のオスカル役の御感想は?」
「素敵だったよぉ。後でサイン貰っていい? オスカル好きなんだぁ~」
「……そぅ。貴女も舞台が好きなのね。……趣味の合う相手は久しいわ」
――手早く済ませて在るべき舞台へと戻り、小さな観衆を喜ばせたい――。
嘗て小さな女の子から貰ったキティーのリストバンドは大事に纏っている。
「良ければ今度のオーディション受けてみる? 私、審査員もしてるの」

「えぇ~。本当ぉ? ハリウッドスター。実は私の憧れだったんだぁ~」
オォオォオ――……。
コズエにとって嘗てない譲歩だったが、アテナは適当にはぐらかしている。
「だったら何時までも耄碌した老人に従うのはやめなさい。貴女の為よ」
「有り難う♪ 貴女の申し出、折角だから受けてみよっかな。つっても」
キィィ……、――ガシャンッ。
自前のマグマを装填すると、アテナは手慣れた動作で銃身をラフに構える。
「この戦いで私が生きてたら、だけど? そろそろ攻撃していいかな?」

「どうぞ。言っておくけど手加減はなし。全力で潰すからそのつもりで」
――チャキ。ヴゥ――ン……。
電磁モードに切り替わった高周波ブレードの刀身が禍々しい煌めきを放つ。
「何時でもいいわよ。何処からでも。来ないならこっちから行くけど?」
「ぅ~怖っ♪ 憧れのウリエル様に斬首されるのも悪くはないかもね~」
きゃはははは――っ。
頭の螺子が飛んだかの様な哄笑が弾けた。アテナが乾いた笑い声を立てる。
◇コンコース◇

「義姉さん、……コイツぁ、……俺達の出る幕ぁなさそうじゃねーか?」
「うむ。アテナはあのロボットに任せておこう。我々はハデスの撃破だ」
「ロボット。くぅ~、相変わらず言い方キツいねェ、義姉さん毒舌ゥ♪」
独特の軽妙な軽口で姉貴分をからかうジャッカル。あのレディも上機嫌だ。
「なら鉄腕アトムレディーというネーミングはどうだ? 悪くあるまい」
「義姉さん、歳バレするっつッてンだが、何とかなンねーか、その……」

「――お寒いオッサンギャグッ!」
「あぁああっ! 思い出したぁ!」
「ッ!? ンだよいきなりよォ?」
「ジャッカル、私は至急ストラディ邸にお伺いに向かわねばならんのだ」
「何故今? 急過ぎンだろ。天然ボケに振り回される身にもなれよな?」
「……とゆーワケで、私は魔界に出向かねばならんっ! 後は頼んだぞ」
コツ、コツ……――。
離脱しようと身構えるレディの下へ、一体の人影が優雅に歩み寄って来る。
「……その必要はありません事よ? 魔界の女騎士レディ・ハルトマン」
「んあ? ンだて前ェは……ッ、つか、お前ェ、……ガーランド、か?」
予想だにしなかった来訪者にジャッカルが息を呑んだ。レディも瞠目する。
「ゾーイ。……ゾーイ・ガーランド。魔界国令嬢ストラディの第一側近」
「ご機嫌麗しゅう。お久しぶりで御座います。生存しておいでで何より」
オォオォオ――……。
黒を基調とした煌びやかなベリーダンス衣装に身を包んだ長身痩躯の美女。
パリコレに居そうなスーパーモデル体型。ミステリアスな中東系の美女だ。
アラビアンを彷彿とさせる漆黒のフェイスベールで口許を覆い隠している。
「……っ!」
魔界令嬢。現世を裏統治する黒貴族と目される最上位階級の王族の一人娘。
その第一側近であるゾーイが、何故この荒んだ辺境地に単身来訪したのか。
「……ゾーイ。何故お前程の真の実力者が、この様な辺境の地に……?」
ザッ――。
正面から向き合うと、レディは身なりを糺す。相手の方がカースト上位だ。
魔界にも厳然たるカーストが存在し、厳しい誓約が在る。血の掟は絶対だ。
「まさか、……」
逡巡する一刹那、レディの思考をまるで先読みしたかの様に女が会釈する。
「左様で御座います。御察しの通り、ストラディ嬢よりの御用命で――」
「んだよ、あの箱入り娘が今回のハデス討伐の為に動いたッつーのか?」
「……仰せの通り。ハデスの背後に犇めく謀略を邪推した結果でしょう」
「……ハデスの背後だと……? 何か陰謀めいた力学でも動いてンのか」
ザッ――。
真意を問い質すべく、長身美女ゾーイの眼前に敢然と佇立するジャッカル。
権謀術数では敵うべくもないがジャッカルも嘗て名を馳せたスレイヤーだ。
今回のハデスの動乱が、曖昧で筋が通っていない事は既に見透かしていた。

「……動乱を引き起こした影の黒幕、及びその目的を述べよ、……てか」
「お判りになりますか? 私の波動水晶は事件の本質を見極めてますが」
おぉおぉお――……。
フェイスベールに覆われた口許が、二ッと嗤う。傍らで様子を窺うレディ。
「ケッ、俺を試そうってか。相変わらずゾーイ、お前は嫌味な野郎だぜ」
「口を慎めジャッカル。御令嬢の腹心の御前だ。それか私が代わるか?」
「義姉さん黙ってろ。これは俺の問題だ。奴さん俺を値踏みしてやがる」
ギリリ――……。
歯噛みするとジャッカルはゾーイを睨みつけた。身体のラインが丸見えだ。
透けたレース柄の瀟洒なベリーダンス衣装。豪奢な下着もはっきり見える。
「……ケッ。腹黒女狐が……ッ」
――キィン――……。(邪眼の展開音)

(ブラックホールじゃねェかッ)
が、――腹の底は暗黒の様に暗く、邪眼を以てしても本心が全く視えない。
「ま、……貴方の神霊力はそんな所でしょう。私の足元にすら及ばない」
おぉおぉお――……。
口許を徐々に広げ、にたりと勝ち誇ったいやらしい笑みを浮かべるゾーイ。
「抜かせ……ッ。お前の邪悪な腸なんぞ読まずとも真相は掴めるさ……」
スレンダー美女に涼やかな視線を注いだまま、ヘラヘラと笑うジャッカル。
が、――内心、負けを認めてはいた。霊感に関してはゾーイの方が格上だ。
「……あら。酷い言われようですこと。レディ、貴女はどう考えます?」
澄まし顔のゾーイが、さして興味もなさそうな眼を気怠げにレディへ移す。
「……知るか。私は突撃隊長だ。御存知だろ? 権謀は苦手な性分でな」
「でしたね。ふふ。……さて、あの様子だと、勝負は一瞬でつきそうね」
おぉおぉお――……。
遠間で異星人と対峙するコズエに眼を向けるゾーイ。真珠の様な瞳が嗤う。
◇学園校舎前◇
オォオォオ――……。
太鼓ッ腹の中年男と眼鏡の男が、ギラついた眼差しをジュンに注いでいる。
薄暗い怨嗟の情念が、……鬱屈した怒りの矛先が自分に向かうのを感じた。
「んだよ、アイツら……。だから、こうなるから嫌なんだよ……」
カミュに批難の眼を向けるジュン。築いた関係性が拗れる事態は避けたい。
「ご、ごめんね、……ぇっとぉ、ジュン、……で良かったっけ?」
「あぁ、それでいいよ。お前は性的なアピールを少し慎むべきだ」
あくまでも冷静に第三者の視点で助言するジュン。カミュには節度がない。
節操のない性的な関係性は搾取の格好の対象だ。凶悪犯罪にも繋がり易い。
「べ、別にアピールとかしてないしぃ。ぁたしは悪くないもんっ」
「ぅふっ。『ディアナ』はね、天真爛漫な友達だから無理なのよ」
カミュを庇うかの様にフォローを差し挟むセレス。何らかの義理を感じる。
が、――その義理は、果たしてカミュを正しい方向に導けているだろうか。

「無理な訳ないだろ? お前、結構、頓珍漢な事を言ってるよな」
「はぁ? 私は彼女に思いのまま自由に生きて欲しいだけで……」
柄にもなくセレスが美貌をムッとしかめた。正論に怯んだのだろうか――。
「律するべきところは律する。それが人道だろ。まぁ分かったよ」
セレスに反発しても仕方がない。彼女は異星人だ。文化も考え方も異なる。
が、――己の掲げるポリシーだけは曲げる訳にいかない。だから誤魔化す。
「なぁ、お前らって、そんな仲良かったっけか? 何時からだ?」
「ぇへっ。ぁたし達は昔っからだよぉ~♪ ね~、セレスぅっ♪」
「ぇ? ……あ、……そ、そうだよぉ? 昔からの、無二の……」
ぎごちない笑顔を浮かべるセレス。だが、その美貌が寂し気に曇ってゆく。
「セレス……? どうした?」
「ぃえ、別に、何でも……っ」
健気に微笑む彼女ではあったが、傍目に作り笑顔と解るのが逆に痛々しい。

「……? ……セレス……?」
今度はセレスが急に心配になってきた。カミュに、――何かされたろうか。
意地悪する様な少女ではない。が、古傷に触る様な事をしたかもしれない。
(……――ッ)
いや、それよりも先ずセレス自身が闇を抱えている様に見えて仕方がない。
鬼軍曹と謳われるその陰に、悲壮な何かを隠し持っていやしないだろうか。
「ねぇジュン、……ちょっといい?」
クイクイと袖を引っ張られ、視線を下げた先に青髪の少女が見上げている。

「ん? あぁ。……でも、何処へ? あとお前、セレスに何かしたか?」
「いいから。早くこっちへ来てっ♪ ぁんたに拒否権ないんだからっ♪」
ザッ――。
ディアナに変装したカミュに先導されて、ジュンは体育倉庫へと向かった。



