Excalibur



 ワァァアア――……。
 場内を揺るがす大歓声を進行役ジェスのパフォーマンスが更に煽り立てる。
「これは凄まじい攻撃だぁあッ! 流石の巨獣も轟沈かぁあーッ?」
「うぉおやったれッ! ワシ等に億万長者の夢ェ見せてくれぇえッ」
「お嬢ちゃぁん可愛い顔に似合わず随分過激ねェ~♪ 惚れるぅウ」
 オォオォオ――……。
 満場の客席のからは激流の様なセレスコールがうねりとなり波及してゆく。
「ぅぁぁあああーーーっ」
 ガンガンガンッ、ドガァア――ッ!
 二丁拳銃を乱射するセレス。炸裂する粒子砲の弾幕が巨獣を膾にしていく。



『グモォォァアアアア――ッ!?』
「今よ、ディアナっ、プランB!」
「……っ?」
 プランB――。そんなプランはカミュの記憶にない。皆目見当もつかない。
「何やってるのディアナ、早くっ」
「……ぅ、ぅん……。わかったっ」
 ドゥ――ッ。
 マットを蹴りつけ低空からの突撃を敢行するカミュ。正面から突っ込んだ。
「はぁっ!」
 ドゴォッ、――キィィィ、……ドォォンッ!!
 降り抜いた右のストレートが巨獣の腹部に炸裂。圧縮エネルギーが爆ぜる。
『グモォォォォォォオオ――ンッ』
 ――チュドォ―ン……。
 爆ぜる火柱。舞い上がる土煙の中、巨獣が喉奥から苦悶の雄叫びを発する。
「……っ?」
 キィン――……。
 瞠目するカミュ。風穴が開いた腹部中央に剥き出しの小さな球体が見えた。

 ◇


 
 ワァァアア――ッ!!
 ド派手な演出に、場内の観衆がスタンディングオベーションを送っている。
「ッしゃあやってまぇえッ! そんなゴリラぁコテンパンじゃぁあッ」
「金融資産ぜんぶぶち込んだんだぁッ! お願い倒してぇえ~~ッ?」
「どでかい花火が見たいんだッ! ゴリラ花火ィ打ち上げ全開だあッ」
 ドォオォオオ――……。
 たちまち最高潮に達する地下闘技場内。全館が湧きたつ熱気で揺れている。
「プラン……――Bぃっ!」
 ドゴドゴドゴォーーッッ!
 怯んだ巨体を押し込みながら、左右の連撃ラッシュをお見舞いするカミュ。
『グモォォォォォ――――ッ!?』
「な、何やってるのディアナっ?」
 重低音の咆哮が轟く最中、セレスの動揺めいた声をカミュの耳が察知した。
「くっ、……違ったのかよ……っ」
 バッ――。ザザァ……。
 そのまま着地するとバックステップで飛び退き、一旦セレスの傍まで戻る。
「ディアナ、もぅ何してるのっ。プランBって言ったでしょう!?」
 絨毯爆撃に加えた、近距離からの更なる集中砲火。――では無かった様だ。
「……そ、そうだったね、……ごめんセレス。……動揺しちゃって」
 バツが悪そうに笑うカミュを睨み眼で咎めながら、セレスが口許を締める。
「いいのよ、さっきの攻撃は効かない様ね。プランDでいこうっ!」
「……わ、わかった。プラン、……Dっ、……だね? ……セレス」
 ――ザッ。
 慎重に、戦闘体勢を取るカミュ。プランDなど知らない。ぶっつけ本番だ。
「さぁディアナ、今度こそ、一気にカタをつけよう! 行くよっ!」
 チャキ――ッ。
 二丁を捨て、片手銃へと移行するセレス。一撃にエネルギーを集約させる。



「あの魔獣、……恐らく弱点はコアよ。剥き出しの瞬間を狙って!」
「っ! ……ぅん、わかった」
 セレスの狙いが解った。魔獣の腹部に隠れた小さな球体。恐らくそれが核。
 魔獣はどうもその核を起点に再生修復を繰り返している。狙いはその一点。

 ◇



 オォオォオ――……。
 声援が吹き荒れる地下闘技場内。罵声や怒号が形を顰め、今や応援一色だ。
『グモォォォァァアアアッッ!!』
 ドゴドゴドゴドゴ――ッ。
 ドラミングで士気を高揚させる魔獣。己を鼓舞する為か、威圧の為か――。
 巨獣の大きな間隙を、セレスの澄んだ紫色の瞳が抜け目なくキャッチする。
「エネルギーチャージ完了、ディアナっ!」
「……オゥケイっ!」
 グギュゥゥ――……。
 撓んだマットを噛み、足底に力を篭めるカミュ。セレスの銃が火を噴いた。
「メガチャージド・キャノンっ!」
 ドキュ――ッ。
 銃の射出音とほぼ同時に、マットを蹴ったカミュが低空から距離を詰める。
「――いっけぇえ、ディアナあっ」
 ドガァァアア――ッ!!
 爆発音。立ち昇った巨大な火柱が会場中を紅蓮のイルミネーションで包む。
『グモォォォォぁァアアアアッッ』
「……プラン、……っ」
 巨獣の腹部に空いた風穴から、小さな球体が覗く。狙いを引き絞るカミュ。
「……――Dぃいっ!」
 ――ドゴォオッ!!
 轟音。振り抜いた渾身の右ストレートが球体に炸裂する。罅割れが奔った。
『グモォォ……ッ!?』
 グモォォォォ――……。
 直後だった。悶絶する巨獣が身を捩りながら嘗てない苦悶の悲鳴を発した。
「効いてる? ……ディアナっ!」
「……まっかせときなってぇっ!」
 ――ドゴォオオッ。
 歪んだ美貌から白い歯が零れる。獰猛な笑みと共に追撃を浴びせるカミュ。



「……ぇっ? ……ディアナっ?」
 背後で唖然たる面相を作るセレスを他所に、カミュはラッシュを繰り出す。
「何してるの? プランDよっ!」
「――ぉらぉらぉらぁああっ!!」
 ドゴドゴドゴドゴ――ッッ!!
 虚空に浮いたその一刹那、カミュが左右からの怒涛の双拳弾を炸裂させた。
 ビシビシィィ――ッ! ヴヴヴ、ヴヴ――……。
 球体に罅割れが奔り、ノイズに包まれる巨獣の姿が急速にジャムってゆく。
『グモ、グモォォ……ッ、ザぁ――……。グモォォァァ……ッッ』
「これは効いてるッ、これは確実に効いているゥゥウ――ッ!!」
「おぉおおッ、百億ゲットじゃぁあッ! いけぇドチビィイッ!」
「これは凄まじい攻撃ですねぇ~♪ 流石の魔獣も敗北かぁ~?」
 ワァァアア――……。
 大音響の歓声が飛び交う場内。解説陣営で休んでいた直人が眼を見開いた。
「……コアだとッ?」
 ガタン――ッ。
 前のめりにリングサイドに近寄ると、直人は戦況を食い入る様に見定める。



「……そうか、実体はホログラム……。なら何故、質量がある?」
「――それそれそれぇえっ!」
『グモォォ、……ザァァ――』
 ドゴドゴドゴドゴ――ッ。
 ディアナの猛攻の最中だったが、罅割れた小さな球体が直人の眼を引いた。
「ッ? 違う、ディフューザーじゃない……、なら、アレは――」
 直感で判った。現代科学で説明不可能。未知の恐らくロストテクノロジー。
 そんなモノと気付かず対峙していた自分の未熟さ加減に心底うんざりする。
「くッ、……気付いてるのか、アイツ等……。アレの正体に……」
 個人的推測だが、恐らくあの球体は物質化可能な光子を投射する記憶媒体。
 それだけじゃない。変電・増幅システムを搭載した学習知能を有している。
 即ち何らかの知的生命体――。そんな相手にディアナは勝てるのだろうか。
「……俺の、……核技術が、……完成していさえすれば……ッ!」
 ギリリ――ッ。
 未曽有の脅威を前にして、改めて歯噛みする直人。見守る事しか出来ない。