Excalibur

 ◇特設リング上◇



 フィィイイ――ッ。
 磁気浮動式の両足底が電磁石の推進力を得て、マット上を滑らかに疾った。
『グルルルァァアアッ』
「……――春霞――ッ」
 ヴンッ、――ドボォオッ!
 魔獣の左フックを掻い潜り様に放った直人の正拳突きがカウンターで炸裂。



『グギャァァアアッ!』
「よしっ、今だよっ!」
「奥義、――電磁砲ッ」
 カッ、バチィイ――ッ!!
 正拳から放射状に射出された電磁スパークが魔獣の総身を内部より灼いた。



『グモォォォオオッ?』 
 ウォオ――……ン。
 喉奥から痛ましい咆哮を喚き散らし、リング中央にて身悶えるモンスター。
「ほら、つぎよ直人っ」
 ――ガシャぁンっ!
 コーナーポスト上部を拳で叩きつけながら、ディアナが諫言を叫び立てる。
「こないだみたく早く燃やしちゃえって! 永久機関なんだろっ?」
「……ぁ? ふざけろッ! そんなモノ実在するワケないだろがッ」
 無茶な質問に半ギレで応答する直人。が、彼女の言いたい事は判っている。
 相手がダメージから回復せぬ間に更なる追加ダメージを与える必要がある。
「――つってもなぁッ」
 ゴォォォ――……。
 電気から熱への転換は応用済みだが直ちにしかも高出力となると別問題だ。
 鍛錬した身体だが生身の肉体である以上無茶な出力変換には耐えきれない。 
(肉体が限界だ――。)
 喉元まで出掛けた言葉を呑み込む直人。熾天使には理解不能かもしれない。

 ◇



 ドォォオ――……。
 焦燥を他所に、客席の興奮度は最高潮に達していた。総立ちの観衆が煽る。
「ワシの財産全額この勝負に賭けとんのやッ、手加減くれぇしろッ」
「バニーちゃんと遊べなくなっちゃうんだよ。お願い負けてぇえっ」
「金融資産売っ払って夜逃げも癪だからッ、クマもん勝ってくれッ」
 ワァァア――……。
 賭博に命を懸けた生粋のギャンブラーやヤク中がここぞとばかり絶叫する。
「おいンだよこんな場所でッ、負け過ぎてトチ狂いやがったかッ?」
「走りたいッ! ワシぁ走りたいんじゃあッ! しかも今直ぐッ!」
 わッ。――ダァッ。
 騒然となる界隈の一角で、群衆の中から中年のストリーカーが走り出した。
「捕まえろッ! そっちへ逃げたぞッ!」
「嫌ぁあっ、こっちへ来ないでぇえっ?」
「おっさんこっちだッ、早く来いやあッ」
 ――カキィーンッ!
 反響する金属バット音。待ち構えていたフーリガンにボコられて轟沈――。

 ◇



 ドゴォオ――ッ。
 凄まじい殴打音がリングに響き渡る。一方的なサンドバッグ状態ではある。
『グモォォォオオオッ!!』
「……くッ、どんだけ殴ってもキリがねェのかよッ!」
 オォオォオ――……。
 リング中央で不敵に嗤うモンスターに手こずる直人。決着がつけられない。
「直人っ、決定打が足りないんだよっ。それじゃ倒せない!」
 コーナー側からディアナの甲高いアニメ声が叫び立てるが良く聞こえない。
「チッ、……再生してくるな。連撃で叩くのは非効率か……」
 ワァァアア――ッ。
 歓声が大きさを増す。館内全域が割れんばかりの野次と怒号に揺れている。
「っかし賑やかだね、……本当にセレスの深層意識内かァ?」
「だからモンスターが再現されてんだろっ! バカなのかっ」
 レフェリーの言葉によると、どうやら秘境の地で捕獲された魔獣の様だが。
 セレスと魔獣の間に何か関係性があるのだろうか。もしあるとすれば――。
「ッ? ……要は過去に遭遇した経験があるってェ事かッ!」
 ガシャンっ――。
 コーナーポストがぶっ叩かれた。青い髪色の少女がわぁわぁと捲し立てる。
「いちいち人に聞くなよっ! ぁんたアタマ悪いんだなっ?」



「……チッ、スパルタかよッ」
 偽ディアナと言い争う事ほど不毛な事はないことが、段々と分かって来た。
 この女――。はぐらかした答えで濁し、一番肝心な事は教えようとしない。
「ケッ、実際にやってみて後は自分で修正しろッて事か……」
 確かにこのままではジリ貧だ。攻撃は修復され、こちらは体力を削られる。
 持久戦に持ち込まれればそれは兵糧攻めと同意、勝ち目は限りなく下がる。
「……ッ」
 先刻のディアナの隠然たる指摘通り、一気にケリをつけるしかなさそうだ。

 ◇学園校舎前◇



 オォオォオ――……。
 セレスを囲む様に並ぶ三体の影。眼鏡は、背に黒髪の少女を背負っている。
「さっきから何しとんじゃジュン坊。その女に気ィがあるんか?」
「いや、……そうじゃない。中に入らないといけないんだが……」
「はぁ? ンなアホな。暴行罪でしょっ引かれるで? つっても」
 ぐるりと首を回し周囲を一瞥すると、ハゲた担任は首を竦め両肩をあげた。
「こんな狂った状況じゃ、しょっ引くモンも居らへんやろけどな」
「しかし、……酷い世の中になっちゃいましたねェ、まさか……」
 世間話に興ずる二人を他所に、意識を集めてリーディングに勤しむジュン。
「……駄目だ、読み解けない。カミュの神霊力は判るんだが……」
「誰ですかジュン君、そのカミュって人は。恋人か何かですか?」
 眼鏡が横から口を挟む。
「いや、……そういうんじゃないんだが。少々、腐れ縁でね……」
 言葉を濁すジュン。特別な感情を抱いているワケではない。が、気になる。
 未来の荒廃した地表が過り、中世の世界観で振り回された苦い過去が過る。
「苦い思い出しかないんだ。……が、一体なんなんだろうな……」
「つまりジュン君と縁深い過去を持った相手、という事でしょ?」
「……あぁ、そうなるのかな。……あまり深く考えた事はないが」
 キィィ――……。
 セレス特有の周波数は皆目解らないが、カミュ特有の神霊波長だけは判る。
 そこを頼りに中へ潜り込めれば、――。
「ぅぅん、……御兄、さま……っ?」
「? どうした、アリエスちゃん?」
 眼鏡が、背負った黒髪の少女に語り掛ける。何やら感じ取っている様だが。
「この中から、兄の匂いがする……」
「え? セレスって子の周りから?」
「……」
 コクンと頷くアリエス。その眼に哀愁が色濃く漂っているのを察する安田。
「……君のお兄さんて、どんな人?」
 アリエスの兄――。興味半分で聞いてみる。
「ぅん。とても逞しくて、正義感の強い人だよっ」
「……」
 サァ――……。
 血の気が引いてゆく。安田の顔色が、たちまち悪くなった。
「そ、その人って今、……ど、何処に居るんだろうね?」
「ぅん。直ぐ近くに居る気がするの。ほら、あそこよっ」
 無邪気に笑いながら、アリエスがセレスの方角を指で示す。
「ぅげぇ……っ」
 安田の顔面がみるみる青ざめる。出来れば兄とは遭遇したくないところだ。
「ジュン坊、ゾンビの群れは任しときや、護ったるッ!」
「……助かる」
 素直に頭を下げるジュン。リーディングには時間を要する。集中が必要だ。