Excalibur

 ◇選手控え室◇



 ガチャ――、バタンッ。
 ドアノブが開き、硬い面相をした直人が入ってきた。遅れてセレスが続く。
「ッ? んだよお前ら、……二人で何してんだ?」
 ゴゴゴゴゴ――……。
 中を一目見るなり、呆れ顔を作る直人。留守番組の二人が掴み合っている。
「兄貴ィッ、この女が、……ぁっしに、乱暴をッ」
「んだとてめーっ、ザコみてーな顔しやがって!」
 息を荒げるプロミス。その腰上に跨ったディアナが小男の首を絞めている。
「そのクビ、関節技で締め落としてやっからよっ」
「ぅぐぐ……ッ、兄貴ィ、……た、助けてぇ……」
「止せ、ディアナ。大事な仲間を傷つけるなッ!」
 ガッ――。
 肩を掴みディアナを引き剥がしつつ、手を引っ張ってプロミスを立たせる。
「大丈夫かプロミス。一体何がどうなったんだ?」
「……けほッ。いきなりこの女が、ぁっしをッ!」
「るっせーなぁ! てめーが抵抗すっからだろっ」
 直人に肩を掴まれてなお小男を罵倒するディアナ。怒りが静まらない様だ。
「……っ」
 直人の背後では、事態に美貌を強張らせたセレスが手で口許を覆っている。
「ちょっと来いディアナ。お前に大事な用がある」
「ぁんっ? 何よ大事な用ってー。プロポーズ?」
「……はぁ。こんな時に冗談を言ってる場合か?」
 何とかセレスとの誤解を解きたい。その為にはどうにも事実確認が必須だ。
 何故ディアナになり替わる必要があったのか、経緯を確かめる必要がある。
「……いいから来てくれ。二人で少し話がしたい」
「兄貴ッ! 気ィ付けてくださいよ、そいつッ!」
 首を抑えながら呼吸を整えるプロミス。青ざめた顔に、血色が戻っている。
「俺は大丈夫だ。プロミスはここでセレスを護れ」
 ――ザッ。
 キビキビした直人の指示に、確り応じるプロミス。セレスの傍へ歩み寄る。
「へ、……へいッ、兄貴こそ気ィつけて……ッ!」
「……っ」
 一瞬、目を合わせるプロミスとセレス嬢。間伐入れずセレスが口を開いた。
「……ぁのっ。私、貴賓席に戻らなければ……っ」
「非常警報も鳴ってない。まだ猶予はあるだろ?」
 既にロイヤルガードは壊滅済みだ。新手の増援部隊の心配をするには早い。
「もう少しここに居てくれ。出来れば救出したい」
「……ぁ、はぁ。ゎ、解ったわ。少しだけね……」
 オォオォオ――……。
 直人の有無を言わさぬ視線に気圧され、躊躇いがちに渋々承諾するセレス。
「行くぞ。ディアナ。いくつか聞きたい事がある」
 グ――ッ。
 肩を掴み、少女の身体を引っ張る直人。その強引さに少女が難色を示した。
「もぅ引っ張らないでよっ。何よ聞きたい事って」
「……大した事じゃない。見せたい物があるんだ」
 視線を逸らす直人。ディアナに余計な不安を与えぬ様、敢えて嘘をついた。
「見せたいモノ? なになに? 気になるぅー♪」
 狙い通り、いとも簡単にのってくるディアナ。後は直接、調査するだけだ。
「……あぁ。皆の前じゃあれだ。一緒に来てくれ」
「ぅんいくっ! プレゼントかなぁ楽しみィ~♪」



「暫く留守番を頼む。警報が鳴ったら直ぐに戻る」
 ガチャ、バタン――。
 留守組に言い残し、ドアノブを回して室外へ。先程のロビーへと移動する。

 ◇人気のないロビー◇



『一人と呼ぶには大きく二人と呼ぶには人口の辻褄が――』
 ワァァア――……。
 外部では先程まで静まり返っていたマイクパフォーマンスが復活している。
「で、何? 用件って。どーせ下らない事なんでしょっ?」
「くだらない? そんなワケないだろッ。重要な話だッ!」
 ――ドンッ。
 壁に手を叩き置くと、直人はセレスにしたと同様にディアナに詰め寄った。
「誤解を解かないとッ! 嫌われたままでいいのかよッ?」
「……ふぅ~ん。そこまで調べたんだぁー。賢いねぇ~♪」
 直人を見上げ、にっこり笑うディアナ。一切合切、承知とでも言いたげだ。
「ッ!? 何が可笑しい? 何で笑っていられるんだッ?」
「ぃや~。成長したなぁ~って思ってぇ。にゃはははっ♪」
「ふざけるなよッ? 自分のやった事、解ってンのかッ?」



「だからセレスを助けよーとしてンじゃん。身体張ってさ」
「……――ッ!?」
 話が視えない――。一旦、押し黙る直人。相手はどうも裏を知ってそうだ。
「ん? どしたの黙り込んじゃって。まーそれもそっか~」
「……ッ」
 思考を巡らすが解らない。自分の生誕より遥か以前に何事かがあった様だ。
「当事者じゃないと分かンないよね~。こんな事さぁ~?」
「……何が、あったんだ? お前たちの間に、一体、……」
「教えてあげないよ~っだ。きゃはは。自分で考えなよ♪」
「……ふざけてるのか? ならもう助太刀も要らないな?」
「助太刀? ぁたしがぁんたの? ぁは。笑わせないでっ」
「……ッ?」
 グ……、パンッ。――ドンッ!
 腕を引き込まれ様に大外刈りで足を払われ、呆気なく真横に倒れ込む直人。
「……ぐッ」
「これが今のぁたしとぁんたの実力差よ。どう。解った?」
 ――ドン。ググ……ッ。
 直ぐに上体を起こしかけるも、腹部を踵で抑え込まれ身動きを封じられる。
「先に言っとくけどね。ぁんたが邪魔してきたの。判る?」
「……ッ!?」
 酒場で酔い潰れたディアナを介抱しなければ、恐らく回されていただろう。
 ハデスと恐らくセレスの合意の下での凌辱的攻撃から、彼女を護ってきた。
 それすら作戦の内だと言い張る様な尻軽なら。己の見込み違いという事だ。
「……解ってたまるかッ。……というか、……お前……ッ」
「なに? そんなじろじろと。何か言いたい事が……っ?」
 オォオォオ――……。
 眼が点に変わる。直人の無言の視線はディアナの下腹部に釘付けのままだ。



 ゴゴゴゴゴ――……。
 意図的か否か、超ミニスカの中身は、無防備なクレバスが露になっている。
「丸見えだぞ。恥ずくないか? 良く平気でいられるよな」
「ぃやっ! 見ないでよっ。バカっ! あっち向いてっ!」
 ――ぱっ。
 慌てて足を離すと、頬を紅く染めたままディアナは股間を両手で覆い隠す。
「まだ修復してないのっ。時間かかるって言ったでしょ?」
「……つーか、……大事な話が全然聞けてないんだが……」
 破れた衣類が修復可能か否かもさることながら――。。
 釈然としない面持ちの直人。詳細が聞けるのはどうも後回しになりそうだ。

 ◇選手控え室◇



 ワァ―、ワァ―……。
 歓声がこだまする控え室内。留守を頼まれた小男がセレスを監視している。
「お嬢さん。で、早い話があの女の事、どう思ってンスか」
「……っ」
 何事かを言い淀んでいたが、暫しの沈黙の後、やがてセレスは口を開いた。
「アレは、……熾天使よ。なぜ私に拘るのか判らないけど」
 言葉を一旦区切る。黙考するセレス。小男が傍で慎重に様子を窺っている。
「ってェと、……やっぱり過去の罪滅ぼしっスかね……?」
「……。だとずっと思っていたけど。……違うのかも……」
「ディアナが消えたのは確かス。親分もノーコメントッて」
 悩めるセレス嬢を労うべく、強い口調で話を合わせる小男。確証があった。
 『現在』より約七千年程前、遺跡調査の途中で彼女は突然、消息を絶った。



 その際に、謎の帯同者が居たという目撃情報が調査班に上がってきている。
「あの不遜な態度。犯人はあの女でほぼ間違いねッスよ!」
 普通に考えて、その可能性が高い。なり替わっての諜報活動を疑うべきだ。
「……っ」
 が――。その割に、これまで地底に大した実害が出ていない事も事実――。
 なり替わった女が分断工作なりの諜報行為を行っていたとすれば矛盾する。
「……不確定で確証も低いのだけれど、他の情報もあるわ」
 その後に行われた複数の探索調査で、戦闘の痕跡が幾つか見つかっている。
 本物のディアナが一体何に巻き込まれ、どうなったのか実際誰も知らない。
「私達の見知らぬ何らの新事実があっても不思議はないわ」
「……要は、あの女とはまだ協力体勢を敷けって事スか?」
 ゴゴゴゴゴ――……。
 猜疑に満ちたプロミスの批難めいた視線に、セレス嬢が深々と頭を下げた。
「御免なさいプロミス。私がボロを出しちゃったかも……」
「お嬢っ? 心配ねッスよ。ぁっしが何とかしまスからッ」
 沈鬱な面持ちで俯くセレス嬢を、労わるかの様にフォローする従者の小男。