◇テラスカフェ◇

「……ッ?」
直人がテラスの異変を察したのは直ぐだった。ディアナの様子がおかしい。
「何だぁ、ヤク中か何かでラりってんのか~?」
「おい見ろよあの女。バイブやってんぞぉッ!」
「きゃぁああっ。きっと変質者か何かよぉっ?」
ざわ、ざわ――……。
周りに座っている人達が怪訝そうな眼、或いは好奇の眼差しを注いでいる。
「……チッ」
リィ――ン……。
閉瞼し、気を研ぎ澄ませる直人。遠間のビル群の陰に怪しい気を探知した。
「……補足」
スッ。キィィ――……。
取り出したコインを人差し指の上に置き、照準を定めつつ勁を凝集させる。
「木崎流投擲術、――電磁銃(レールガン)ッ」
――パァンッ、――ゴッ!!
小さな爆破音がして、電磁の力で射出されたコインが標的の眉間を穿った。
「……ぎゃッ」
悲鳴が上がる。人間離れした体型を思わせる影が、建物の奥へと姿を隠す。
「……」
「で、今夜の披露宴会場。コーディネートは何にする?」
「私はフォーマルで参加するけど。貴女はパーティー?」
ガヤ、ガヤ――……。
テラスへと目を向ける直人。特に変化もなく先程と同じ様に賑わっている。
「……ぅぅ~……ぁへぁ~……」
チェアに凭れ腰を浮かせていたディアナの痙攣も、どうやら収まった様だ。
敵の気配もない。直人の俊敏かつ迅速な対処が、窮地を打破したとみえる。

ざわ、ざわ――……。
心地よい夜風を浴びながら、テラスチェアに脱力して凭れかかる青髪少女。
「~~っ。ぅぅ~……。はぁらほんひゃひしゅるぅぅ~~」
虚ろな眼を宙に注ぎ、半開きの唇から言葉にならない嬌声を漏らしている。
「ッ。ったく酷い顔だな。だらしないにも程があるだろ?」
ザ――ッ。
鷹揚な足取りでディアナの傍へ戻る直人。彼女の姿に、嘆息するばかりだ。
「そんな事言ったってぇ~。アイツ突然だったからさぁ~」
狙撃で破かれたパンツをそのまま着用しており、まるで事後の様な格好だ。
今後の行動に際し、彼女のミニスカノーパン姿を連想すると、ゾッとする。
「それより遅いよ直人っちぃ。もちょっと頑張ってよね~」
「すまない。相手の発見が少し遅れた。が、返礼はしたよ」
初見の異星人だったが、特徴は掴んだ。今度は確実に仕留められるだろう。
コインを通じて標的の額に磁気ヘッドを仕込んだ。位置追跡が容易となる。
「お前は結界内では散々だな。セレスに遠慮してるのか?」
「んー? 遠慮ってー?」
「ん? ……違うのか?」
彼女は千里眼を持っている。千里眼は直近の未来予知が可能だったハズだ。
が、敢えて敵の手中に嵌る彼女は、まるでセレスに遠慮しているかの様だ。

「別に~どーだっていいでしょ? そんな些細な事さぁー」
「……あぁ。それもそうかもな。まぁ、どっちでもいいか」
不貞腐れたディアナの物言いに、失笑する直人。些か、ご機嫌斜めの様だ。

ざわ、ざわ――……。
夜半のテラスカフェは相変わらず和やかな会話や街の雑踏で賑わっている。
怪訝そうにディアナを見ていた者も、やがて自分達の日常に戻っていった。
「ぅ~……。まぁだチカチカするぅ~……。頭痛ぁい……」
頭痛がするのだろう。顰めっ面で頭を手で押さえながら、ぼやくディアナ。
ゴム弾デバイスは簡単に取り外せた為、幸いにも彼女は洗脳を免れていた。
「で結局、誰だったんだ? あのスナイパーの様な野郎は」
「んー……。遠隔で、洗脳系だからぁ。ハメルスだと思う」
「ギリシャ神話、……ヘルメスか? 伝令者として伝わる」
ジュピターの弟。冥界と現世、天上を行き来できる韋駄天を持つとされる。
彼の神器は湾曲型の刀剣ハルパーの筈。ライフルを使うとは予想外だった。
「多分そぅ。んの野郎ぉ~。ぁたしのこと小馬鹿にして~」
「……バカにされる方もどうかとは思うが。まぁ仕方ない」
――ポンっ。
歯軋りして悔しがるディアナの肩を軽く叩き、直人は適当に彼女を宥めた。
「切り替えて行こう。やはりこの結界内から出るべきだな」
異星人の土俵で戦い続けるのは分が悪い。現世へ帰還を急ぐべきと判じた。
「出るたってー。どやって出んのー? 方法おせーてよー」
「まぁ、焦るな。先ず確り対策を練って、それから行動だ」
「そんなめんどっちぃ事、ぁたしがやる訳ないじゃんよ?」
「……」
――ギシっ。
椅子に凭れるディアナの脱力気味の返事に、黙考した後、小声で呟く直人。
「ヘルメースを使う……。奴の能力でハデスを無力化する」
勝算はあった。ディアナを洗脳しかけた程だ。ヘルメースの異能は強力だ。
恐らく、相手の神力と無関係に、強制的洗脳下に持ち込める力なハズ――。

「そんな簡単にいくの? 大体アイツが逃げた先も……っ」
ぐっ――。
ディアナの手を引っ張って椅子から無理やり立たせると、直人は断言する。
「ヘルメースの居場所なら追跡可能だ。奴の確保を急ごう」
「……は? ぇぁっ……、そ、そぉ……。わかるんだ……」
――ヒククっ。
直人の自信めいた口調に、強張った笑顔を思いきり引き攣らせるディアナ。
◇青海駅コンコース◇

オォオォオ――……。
青海駅前のコンコース周辺一帯は現在、時間が非常に緩やかに流れていた。
「……ぅぅ、ぐぅう……っ」
ヴヴヴヴヴ――……。
拡張限界まで重力レンズを展開するレディの周囲の景観が歪に撓んでいる。
「クック……。お主、中々に面白い術を使いよるの……」
「くっ、……ぬかせ……っ」
身動きを封じられてなお、余裕の笑みを湛えながらレディを褒めるハデス。
その背後に広がる中央ホール内部では、二人の男が取っ組み合いの最中だ。
「刺さりゃしねぇ! どーなってんだテメェの身体はッ」
「ケッ、お前ェなんぞの剛毛が刺さるわきゃねーだろ!」
ゴォォオ――……。
部分的に蒸気化させてはいるが、相手の関節を局所圧で巧みに極めていた。
「とっととおネンネしちまいなッ!」
「ぐ……ッ、ぬぐぐ……ぅぐぅうッ」
メキメキィ――……。
急所狙いの的確な締め付けに、溜まりかねて手足をバタつかせるバッカス。
が、――足掻けば足掻く程に、バッカスの首の締め付けは強くなってゆく。
「黄泉流絶技、――女郎絡めッ!」
「……ぅぐぉぉぉ……ぁぁああッ」
キリリリ……ガチィィ――ッ!
支点をミリ単位で正確にずらすジャッカル。スリーパーが完全に極まった。

バキィィ――ッ!!
鈍い粉砕音が響き渡った。バッカスの総身を縛っていた蒸気が晴れてゆく。
「……ぜェ、ぜェ」
ゴトン――。シュゥゥゥ……。
糸の切れた人形の様に床上に頽れる狼男。その変身が解けて人型へと戻る。
「……ほぅ。バッカスを倒すとはお主……手練れよのぉ」
「ッたり前ェだろ。アスモデウスの化身を舐めンなよ?」
「……ジャッカル、……助力を、……頼める、か……っ」
ヴァア――……。
か細いレディの声を聴くまでもなく、ジャッカルはハデスに襲撃を掛ける。
「義姉さん後は任せろッ! コイツは俺が相手ンな――」
「ガルルルルァァッ!!」
――ガバァッ。
突然、戦況を窺っていた三つ首の獰猛な魔獣がジャッカルに跳び掛かった。
「デカブツがッ。俺にゃメーンディッシュなンだよッ!」
キュンキュン――、ギチィッ!!
宙を舞い上がった巨躯が、仕掛けられた不可視の煌めきにより封殺される。

「ゴァァァアアアッ!??」
「義姉さんッ、追加だッ!」
「う……おぉおおおっ!!」
ヴヴヴヴ――……。
渾身の神力を込めて、レディがケルベロスに更なる数十倍の荷重を加える。

「合技、――蜘蛛糸縛殺ッ」
「――グガァァアアアッッ」
――ズバァンッ!!
宙吊られた巨躯が、膨れ上がった自重に耐え兼ね、肉塊の五月雨と化した。

「……ッ?」
直人がテラスの異変を察したのは直ぐだった。ディアナの様子がおかしい。
「何だぁ、ヤク中か何かでラりってんのか~?」
「おい見ろよあの女。バイブやってんぞぉッ!」
「きゃぁああっ。きっと変質者か何かよぉっ?」
ざわ、ざわ――……。
周りに座っている人達が怪訝そうな眼、或いは好奇の眼差しを注いでいる。
「……チッ」
リィ――ン……。
閉瞼し、気を研ぎ澄ませる直人。遠間のビル群の陰に怪しい気を探知した。
「……補足」
スッ。キィィ――……。
取り出したコインを人差し指の上に置き、照準を定めつつ勁を凝集させる。
「木崎流投擲術、――電磁銃(レールガン)ッ」
――パァンッ、――ゴッ!!
小さな爆破音がして、電磁の力で射出されたコインが標的の眉間を穿った。
「……ぎゃッ」
悲鳴が上がる。人間離れした体型を思わせる影が、建物の奥へと姿を隠す。
「……」
「で、今夜の披露宴会場。コーディネートは何にする?」
「私はフォーマルで参加するけど。貴女はパーティー?」
ガヤ、ガヤ――……。
テラスへと目を向ける直人。特に変化もなく先程と同じ様に賑わっている。
「……ぅぅ~……ぁへぁ~……」
チェアに凭れ腰を浮かせていたディアナの痙攣も、どうやら収まった様だ。
敵の気配もない。直人の俊敏かつ迅速な対処が、窮地を打破したとみえる。

ざわ、ざわ――……。
心地よい夜風を浴びながら、テラスチェアに脱力して凭れかかる青髪少女。
「~~っ。ぅぅ~……。はぁらほんひゃひしゅるぅぅ~~」
虚ろな眼を宙に注ぎ、半開きの唇から言葉にならない嬌声を漏らしている。
「ッ。ったく酷い顔だな。だらしないにも程があるだろ?」
ザ――ッ。
鷹揚な足取りでディアナの傍へ戻る直人。彼女の姿に、嘆息するばかりだ。
「そんな事言ったってぇ~。アイツ突然だったからさぁ~」
狙撃で破かれたパンツをそのまま着用しており、まるで事後の様な格好だ。
今後の行動に際し、彼女のミニスカノーパン姿を連想すると、ゾッとする。
「それより遅いよ直人っちぃ。もちょっと頑張ってよね~」
「すまない。相手の発見が少し遅れた。が、返礼はしたよ」
初見の異星人だったが、特徴は掴んだ。今度は確実に仕留められるだろう。
コインを通じて標的の額に磁気ヘッドを仕込んだ。位置追跡が容易となる。
「お前は結界内では散々だな。セレスに遠慮してるのか?」
「んー? 遠慮ってー?」
「ん? ……違うのか?」
彼女は千里眼を持っている。千里眼は直近の未来予知が可能だったハズだ。
が、敢えて敵の手中に嵌る彼女は、まるでセレスに遠慮しているかの様だ。

「別に~どーだっていいでしょ? そんな些細な事さぁー」
「……あぁ。それもそうかもな。まぁ、どっちでもいいか」
不貞腐れたディアナの物言いに、失笑する直人。些か、ご機嫌斜めの様だ。

ざわ、ざわ――……。
夜半のテラスカフェは相変わらず和やかな会話や街の雑踏で賑わっている。
怪訝そうにディアナを見ていた者も、やがて自分達の日常に戻っていった。
「ぅ~……。まぁだチカチカするぅ~……。頭痛ぁい……」
頭痛がするのだろう。顰めっ面で頭を手で押さえながら、ぼやくディアナ。
ゴム弾デバイスは簡単に取り外せた為、幸いにも彼女は洗脳を免れていた。
「で結局、誰だったんだ? あのスナイパーの様な野郎は」
「んー……。遠隔で、洗脳系だからぁ。ハメルスだと思う」
「ギリシャ神話、……ヘルメスか? 伝令者として伝わる」
ジュピターの弟。冥界と現世、天上を行き来できる韋駄天を持つとされる。
彼の神器は湾曲型の刀剣ハルパーの筈。ライフルを使うとは予想外だった。
「多分そぅ。んの野郎ぉ~。ぁたしのこと小馬鹿にして~」
「……バカにされる方もどうかとは思うが。まぁ仕方ない」
――ポンっ。
歯軋りして悔しがるディアナの肩を軽く叩き、直人は適当に彼女を宥めた。
「切り替えて行こう。やはりこの結界内から出るべきだな」
異星人の土俵で戦い続けるのは分が悪い。現世へ帰還を急ぐべきと判じた。
「出るたってー。どやって出んのー? 方法おせーてよー」
「まぁ、焦るな。先ず確り対策を練って、それから行動だ」
「そんなめんどっちぃ事、ぁたしがやる訳ないじゃんよ?」
「……」
――ギシっ。
椅子に凭れるディアナの脱力気味の返事に、黙考した後、小声で呟く直人。
「ヘルメースを使う……。奴の能力でハデスを無力化する」
勝算はあった。ディアナを洗脳しかけた程だ。ヘルメースの異能は強力だ。
恐らく、相手の神力と無関係に、強制的洗脳下に持ち込める力なハズ――。

「そんな簡単にいくの? 大体アイツが逃げた先も……っ」
ぐっ――。
ディアナの手を引っ張って椅子から無理やり立たせると、直人は断言する。
「ヘルメースの居場所なら追跡可能だ。奴の確保を急ごう」
「……は? ぇぁっ……、そ、そぉ……。わかるんだ……」
――ヒククっ。
直人の自信めいた口調に、強張った笑顔を思いきり引き攣らせるディアナ。
◇青海駅コンコース◇

オォオォオ――……。
青海駅前のコンコース周辺一帯は現在、時間が非常に緩やかに流れていた。
「……ぅぅ、ぐぅう……っ」
ヴヴヴヴヴ――……。
拡張限界まで重力レンズを展開するレディの周囲の景観が歪に撓んでいる。
「クック……。お主、中々に面白い術を使いよるの……」
「くっ、……ぬかせ……っ」
身動きを封じられてなお、余裕の笑みを湛えながらレディを褒めるハデス。
その背後に広がる中央ホール内部では、二人の男が取っ組み合いの最中だ。
「刺さりゃしねぇ! どーなってんだテメェの身体はッ」
「ケッ、お前ェなんぞの剛毛が刺さるわきゃねーだろ!」
ゴォォオ――……。
部分的に蒸気化させてはいるが、相手の関節を局所圧で巧みに極めていた。
「とっととおネンネしちまいなッ!」
「ぐ……ッ、ぬぐぐ……ぅぐぅうッ」
メキメキィ――……。
急所狙いの的確な締め付けに、溜まりかねて手足をバタつかせるバッカス。
が、――足掻けば足掻く程に、バッカスの首の締め付けは強くなってゆく。
「黄泉流絶技、――女郎絡めッ!」
「……ぅぐぉぉぉ……ぁぁああッ」
キリリリ……ガチィィ――ッ!
支点をミリ単位で正確にずらすジャッカル。スリーパーが完全に極まった。

バキィィ――ッ!!
鈍い粉砕音が響き渡った。バッカスの総身を縛っていた蒸気が晴れてゆく。
「……ぜェ、ぜェ」
ゴトン――。シュゥゥゥ……。
糸の切れた人形の様に床上に頽れる狼男。その変身が解けて人型へと戻る。
「……ほぅ。バッカスを倒すとはお主……手練れよのぉ」
「ッたり前ェだろ。アスモデウスの化身を舐めンなよ?」
「……ジャッカル、……助力を、……頼める、か……っ」
ヴァア――……。
か細いレディの声を聴くまでもなく、ジャッカルはハデスに襲撃を掛ける。
「義姉さん後は任せろッ! コイツは俺が相手ンな――」
「ガルルルルァァッ!!」
――ガバァッ。
突然、戦況を窺っていた三つ首の獰猛な魔獣がジャッカルに跳び掛かった。
「デカブツがッ。俺にゃメーンディッシュなンだよッ!」
キュンキュン――、ギチィッ!!
宙を舞い上がった巨躯が、仕掛けられた不可視の煌めきにより封殺される。

「ゴァァァアアアッ!??」
「義姉さんッ、追加だッ!」
「う……おぉおおおっ!!」
ヴヴヴヴ――……。
渾身の神力を込めて、レディがケルベロスに更なる数十倍の荷重を加える。

「合技、――蜘蛛糸縛殺ッ」
「――グガァァアアアッッ」
――ズバァンッ!!
宙吊られた巨躯が、膨れ上がった自重に耐え兼ね、肉塊の五月雨と化した。


