Excalibur

 ◇夜のテラスカフェ◇



 ザザァ――……。長閑な潮騒の音。ネオンに彩られた海縁に面したテラス。
 夜のレストランカフェで、作戦会議と銘打ったディナーを堪能する探訪者。
「はぐっ。美味しいっ♪」
「……良く喰うよな……」
 半ば呆れ気味に、ディアナの食事ぶりを眇める直人。米ドルも残り少ない。
 所持金が尽きるまでに、セレスの結界内からどうにか抜け出す必要がある。
「……少し、夜風にあたってくる」
 ガタン――ッ。
 おもむろに背凭れチェアを下げると、直人は気怠げに席から立ち上がった。
「ん~? ひょっほろほひふろ?」
「いや、……ちょっと散歩だ……」
 言ってる意味も解らない上、一方的な食事に付き合わされても仕方がない。



「ふぁ~ひ。ひっへはっひゃ~ひ」
「……」
 ザッ――。
 一頻り周囲の安全確認を終えると、直人はテラスを後に、雑踏に紛れ込む。



 ♪~プぁーンッ。ズチャッ、ズチャッ~♪
 夜半のカフェにしては賑やかだ。海岸通りではパレードが開催されている。
「でさ、今度のハネムーンなんだけど。クルーズなんてどうかな?」
「えぇ。いいわね。素敵。代理店決めなきゃ。格安ツアーは嫌よ?」
 ざわ、ざわ――……。
 各々の会話を愉しむ結界の住人達。姿形も、意識も宿っている様に見える。
「今度のキャサリンのバースデーパーティ、どうやって祝おうか?」
「サプライズに彼女の母校、アテネ大学聖歌隊の合唱なんかどう?」
 ざわ、ざわ――……。
 オープンテラスに設営された丸テーブルに腰掛け、カフェを愉しむ住人達。
 過去の住人達ではあるが、彼等にも往時の暮らしや各々の夢があった様だ。
「……」
 オォオォオ――……。
 群衆に紛れ、人ならざる者の気配を感じていた。異形というには神々しい。
 恐らくはセレスの親友である他の異星人が放つ、特有の周波数なのだろう。
「……チッ」
 が、夜眼を凝らしても一向に姿が視えない。テラスの周囲には居ない様だ。
 ザッ――。
 ディアナを遠目に据えつつ周囲を巡回するが、特に危険はなさそうだった。

◇テラス◇



 テラスからやや離れた遠間ではフードを目深に被った直人の姿が巡回中だ。
 距離にしておよそ数十M。追撃者の得意とする遠距離からやや離れている。
「……ふーん、そ。ぁたしとヤろーってか? 甘く見んじゃねーよ」
 キィン――。
 前髪を掻き揚げるディアナ。青い双眸が煌き、周波数モードに切り替わる。
 ディアナの眼は神霊力や異星人特有のマグマ及びその数値を見分けられる。
 いわゆるチート――。
「っ? そこかっ。早速だけど見つけたよン♪ チェックメイト~」
 ――ィィン。
 約一ブロック程離れた商業ビルの陰から、一人の男がテラスを覗っている。
「マグマ持ってんね~。セレスの友達っぽいけど。……ハメルス?」
 ハメルス――。直接の面識はないが、スナイパータイプと聞いた事がある。
 遠隔狙撃により相手の弱点に周波数発生装置を埋設し、傀儡化する異能者。
「……」
「へへ~ん♪ どーゆー攻撃だか知んないけどさぁ~」
 ぐびっ、ぐびっ――。
 テラスに優雅に腰掛け、薄笑いを浮かべカップティーを呑み干すディアナ。



 傀儡化するなら弱点として頭部を狙うハズ――。意識をそこに集中させる。
「距離あるしぃ、出向くのもめんどっちぃよねぇ~♪」
 ガバァっ――。……ギシぃっ。
 大胆にも両足を大きく開くと、ディアナは狙撃者の正面へと身体を向ける。
 第三の眼、千里眼を展開するまでもない。力圧しで十分勝てると判断した。
「正々堂々、勝負したげるわっ。さぁ~どっからでも」



 キィィイイ――……。
 微かな共鳴音が鳴る。輝ける右の前腕が、例の如く銃の兵装を全周に纏う。
「カウンターでこめかみ撃ち抜いてやっ、……ぁんっ」
 ――ドチュっ。
 愛液が飛沫く。その刹那、股間に奔った衝撃がディアナの口を封じ込んだ。



 ヴヴヴ――……。
 秘部に撃ち込まれたゴム弾の様な装置から、特定の振動波が発生していた。  
「……ぉっ♡、ぉんっ。これ……やばっ……♡」
 ゴム装置から伝播される微細な振動波が波及し、ディアナを身悶えさせる。
「ゃっ♡ んんっ、……ぉっ、ぁっ、ぁあっ♡」
 ビクっ、ビクン――っ。
 背凭れに両腕を預け、椅子からやや浮かせたエビ反りで、腰を跳ねさせる。
「……ぁ、だめっ、これ……っ。ぅひゃぁっ♡」
 チカっ、チカっ――。
 身体が甘酸っぱく痺れる。視界に星が瞬き、正常な思考力が奪われてゆく。
「んぉっ、ぉぉ~っ、んぉぉぉ~~~……っ♡」
 とろん――。
 虚ろな眼が宙を舞い、半開きの唇からは獣の様な低い呻き声が漏れている。
「……んぉっ!?」
 ヴヴヴ――……。
 撃ち込まれたゴム弾の振動が一際、激しくなった。たまらず矯声が漏れる。
「っ、ぉぉんっ。……んぉぉぉぉ~~っっ♡♡」
 ビクっ、ビクっビクンっ――。
 呆気なく連続絶頂するディアナ。漣の様な悦楽がディアナを頂へ押しやる。

 ◇青凛学園‐校舎前◇



 オォオォオ――……。
 青凛学園の校舎前。四方には爆散した甲冑とゾンビの肉塊が散乱している。
 襲来してきた二体の異星人は逃走した様子。が、恐らく大ダメージは必至。
「おーい。そっち大丈夫かー?」
 タタタ――……。
 駆け足と共にのんびり声が届く。消耗のないジュピターは元気一杯の様だ。
「ひぃぃっ。ゾンビがぁぁっ!」
「どーなっとんじゃ一体全体っ」
 タタタ――……。
 そこかしこに点在するゾンビの焼け跡を通り抜け、駆けつける学園関係者。
「しっかし凄い威力だなぁおい」
 タタタ――……。
 ジュピターを先頭に、戦況を見守っていた二人もジュンの下に駆けてきた。
「滅茶苦茶やでジュンちゃんっ」
「アリエスちゃん、どったの?」 
 大仰に慌てる担任のハゲの横では、安田が慎重に黒縁眼鏡を光らせている。
「……アリエスが、大変なんだ」
「えぇー? そんなのやだよぅ。ボクのアイドルなのにぃ」
「何とかせぇやジュン坊。コイツおらな戦力半減じゃろが」
 昏倒するアリエスを両手で強く抱き留めながら、懸命に呼び掛けるジュン。
「アリエスッ、しっかりしろッ」
「ぅ、ぅーん……お兄ちゃん?」
 寝ぼけ眼を薄っすらと開くと、アリエスは目をごしごし擦りながら微笑う。
「ぁはっ。迎えに来てくれたぁ」
「ッ。……違う。俺はジュンだ」
 苦衷に歯噛みしながら小声を絞り出すジュン。正直、兄だと騙したかった。
 が、――その場凌ぎの軽率な嘘を吐く事は、アリエスの為にならない――。



 依り代が誰か判らないが、リリスの抜け落ちた本体と向き合う必要がある。
「雰囲気似てるけど。違うの?」
 縋るかの様なアリエスの眼差しに、ジュンは逡巡の末、渋々首を横に振る。
「……あぁ違う。が、安心しろ」
 元気づけるべく少女の両肩を確りと掴むと、ジュンは優しい視線を注いだ。
「見つけてやるから。……な?」
 どうも依り代である少女の兄とやらは、自分と雰囲気が若干似ている様だ。
「ほんと? 絶対、約束だよ?」
「解った。だから、もう泣くな」
「……ぅんっ」
 にっこり微笑むアリエスの無垢な笑顔が、逆にジュンの胸中を痛めつける。
 が、痛みは、優しさの裏返しでもある。痛みに耐えた分だけ、強くなれる。
「……よし。急ぐぞ。レディ達と合流だッ」
「レディって、あの神経質そうな細眉の?」
 意外にも脳筋のジュピターが会話に喰いついてきた。話を合わせるジュン。



「ッ。良く知ってるな。面識があるのか?」
「あぁ。昔な、一度だけ会った事あんだよ」
「……へぇ。意外だな。戦闘はしたのか?」
「まーそん時ゃ、ぁたいが勝ったけどなっ」
 勝ち誇った余裕の笑みを注ぎつつ、ジュピターが真っ直ぐにジュンを視る。
「……そうか……」
 ジュピターは嘘を言う様な女ではない。もとはゼウス神だ。弱い訳がない。
 過去にレディと浅からぬ因縁があった様だが、味方になれば心強い限りだ。



 オォオォオ――……。
 ぐるりと周囲の状況を一頻り観測し終えると、ジュンはやおら口を開いた。
「ゾンビがまだ多いな。俺が先導する。ジュピター、援護を頼めるか?」
「あ? お前のか? まぁいーけど。んじゃーぁたいの援護も頼むぜっ」
「……決まりだな。話が早くて助かるよ、ジュピター。じゃあ、行くぞ」
 チャキ――ッ。
 銃把を慎重に掴み様、通りに出るジュン。目指すは駅ホームのコンコース。
「アリエスちゃんは、このボクが護るよっ」
「こんガキャあワシに任せとかんかいッ!」
 タタタ――……。
 先導するジュンの後を、アリエスを介抱しながらハゲ洗と安田が追従する。