夏の一番高い日差しが遠くなって、柔らかいオレンジ色した陽がボクのいるこの場所を照らしていた。行き交う人を眺めていると、見知った顔の二人が歩いて来るのが見えた。

　萌音ちゃんが帰って来た！

　そう喜びたいけれど、そういうわけにもいかない。萌音ちゃんの横には隣に住む幼なじみの男子、浬(かいり)がいたからだ。
　萌音ちゃんと浬はいつも一緒にいた。まるで本当の兄妹のように仲が良かった。彼女は浬に想いを寄せている。
　恋に鈍感な浬(かいり)は萌音ちゃんの熱い想いを知ろうともしていない。見ているボクの方がもどかしい。
　萌音ちゃんは現在、絶賛片想い中の彼を振り向かせようと試行錯誤の日々を送っている。

　サッカー部で活躍する浬は、バカが付くほどサッカーに熱中している。
　竹を割ったように真っすぐで嫌みのない明るさがある。男女共に好かれている人気者だ。そんな浬を狙うライバルも多そうだけど。
　萌音ちゃんはサッカーの試合があればたまに応援に行く。作ったおにぎりとフルーツと飲み物を持って、新妻のように世話を焼いたりしている。
　しかも浬の誕生日にはお手製のクッキーを焼いていたっけ。「一口だけあげる。ママには内緒だよ」って萌音ちゃんから貰ったけれど、ボクにはお菓子のおいしさがよくわかんなかった。ごめんな萌音ちゃん。

（内緒でもらった竹輪とかチーズとかハムや鰹節の方がボク的には旨かった件）　
　
　バレンタインデーには手づくりの生チョコレートを作って浬に渡してたのを、この二階の出窓から眺めていた。
　だけど、普通にチョコを受け取って何事もなかったように家に帰っていく浬。あまりの無神経さにボクはかなりイラついたりもした。萌音ちゃんは君を振り向かせようと一生懸命努力しているというのに。
　
　浬さ、君は鈍感すぎやしないか？
　猫のボクにだってそのくらいわかるさ。
　浬とは一度、腹を割って語り合う必要があると思うわけで。
　ボクは人の話す言葉や意味を理解することは出来ても、人のように話すことはできない。実はそれが一番もどかしくて腹立たしかったりする。

　萌音ちゃんは一途で純粋な女の子。
　浬(かいり)もすごくいい奴だ。ボクもよく可愛がってもらっているから、そこら辺はよく分かっている（つもり）。
　スポーツ万能で勉強もそこそこ出来てルックスもいい。しかも性格もよいとくれば女子がほっとくわけがない。実際バレンタインデーに多くの女子からチョコを貰っていた。
　彼の唯一の落ち度と言えば恋に鈍感だということくらいだろうか。いやそれが一番問題だろう。本当のところ、萌音ちゃんのことをどう思っているんだろう。
　聞きたい。居ても立ってもいられないよ。