クウェンティンを伴って階段を降り彼に挨拶をすれば、ヒルデガードは私を見て楽しそうに笑った。

「ああ……そうか。これが、兄の妻。噂の会うこともなく、未亡人になった女性か。この兄の美しい妻も、俺のものだ!」

 いきなり何を言い出したのかと私が動きを止めれば、背後に控えていたはずのクウェンティンが前に出た。

「ヒルデガード様。お待ちください。まだ……旦那様の喪が明けておりません。奥様は誰とも結婚出来ません」

「お前は……クウェンティンとか言ったか。拾われて、兄上のお気に入りだったな。平民上がりの執事如きが、俺に口答えをして生意気な……」

 つかつかとこちらに近寄って来たヒルデガードは、クウェンティンの銀髪を乱暴に掴んで、立っていたクウェンティンを倒そうとした。

 私は信じられない事態に、クウェンティンの前に出てヒルデガードの腕を掴み懇願した。

「止めてください! お願いします。クウェンティンに、手を出さないで!」

「奥様。どうか、僕にご命令を。今、ここで彼を殺します」

 静かに私に聞いたクウェンティンを振り返り、彼の瞳を見て、ぞくりと肌が粟だった。