義母が不機嫌になり暴れることは、エタンセル伯爵家では良くあることだった。義理の娘の私一人が怒鳴られるだけで済めば、それは良い方だ。ただの使用人では公爵家の血を持つ義母に、殺されてしまっても何の文句は言えないのだから。

「ブランシュ……」

 その時、父は娘の私に、初めて謝ろうとしたのかもしれない。けれど、ここで彼が出て行って娘の私を庇ってしまえば、また義母の態度が悪化してしまう。

 それはもう既に何度か繰り返されて、私たち親子二人は疲れ果ててしまっていた。

 私は父に向けて静かに首を横に振り、何かで機嫌を損ねたらしい義母の元へと急いで向かった。